Windows Vista の代わりに Linux をインストールすべきでない 5 つの理由

19/12/24 追記:Windows 7 EOL にあわせて新しく書きました。

はじめに

2017年4月11日に Windows Vista の延長サポート期間が終了するそうです。以後セキュリティホールが発見されても修正はされないということであり,Windows Vista を使い続けることは非常に危険となります。

したがって可能な限り速やかに新しい環境に乗り換えることが必要になりますが,その中で,雑誌やウェブサイトなどで「Linux [ref]詳しい人向け:「Windows」や「macOS」との対比を意識し,この記事においては全て「GNU/Linux ディストリビューション」の意味で「Linux」という語を使っています。 [/ref] に乗り換えれば無料で安全」という記事を目にした方も多いのではないかと思います。この記事は,そのような記事には書かれていない事実を伝え,時間と労力を浪費する人が一人でも減ることを期待して書いたものです。

なお本記事はコンピュータに詳しくない方のために書いたものであるため,用語や解説に不正確な部分があることを予めご了承ください。

Vista の代わりに Linux をインストールすべきでない理由

買い換えたほうがずっと快適

技術の進歩が日進月歩であることを指して,犬の1年はヒトの5,6年程度に相当するとされることから「ドッグイヤー」と言ったりしますが,ことコンピュータの世界では「マウスイヤー」なんて言葉が使われることがあります。マウス(ハツカネズミ)の寿命は2年程度とされ,じっさい,冷蔵庫や洗濯機などの家電であれば10年かかるような変化が毎年起きているのがコンピュータの世界です。

Passmark というベンチマーク [ref]コンピュータの性能を計測するためのソフトウェアやその結果のこと。ただしあくまでも一定のテストの結果で,実際の使用感を調べられるわけではないので,あくまでも目安として利用しましょう。[/ref]があります。その数値が公開されていますので,ここからお持ちのパソコンの CPU の数値を探してみてください。見つかりましたか? では,「1261」 という数値と比べてみてください。

この数値がいったい何なのかというと,Atom x5-Z8350 という CPU の数値 [ref]17/3/26現在。[/ref]であり,2万円ちょいで販売されている [ref]同上。[/ref] ASUS VivoBook R209HA など,現行パソコンの中で最低クラスのものの性能です。もちろん新品です。ストレージ容量こそ手狭ですが,こちらのほうがバッテリが持ちますし(公称9.5時間),液晶も綺麗で,軽量で(980g),発熱が少なく冷却ファンもありません。6万円前後の安物の12.1型モバイルマシンで見かける Core m3 7Y30 なら 3676 [ref]17/4/11現在。[/ref],同価格帯の15.6型据置マシンに多い Core i5 7200U なら 4713 [ref]同上。[/ref] です。

買った時は高価でも,今ではそのパソコンの性能はこの程度です。それでも使い続けるだけの価値があるか,一度よく考えてみてください。

Windows 10 のほうが即戦力になる

Windows Vista は大飯喰らいの OS [ref]Operating System の略で,「基本システム」と訳されることもある。その上でアプリケーション――ブラウザやオフィススイートなど――を動作させるためのシステム。[/ref] です。ちゃんと使うためには最低限デュアルコア CPU と 2GB 程度の RAM [ref]メモリないし DRAM とも言う。ハードディスクではない方。[/ref] は必要でしょうか。

それくらいの性能があれば Windows 10 を動作させることができます。2万円近い出費はたしかに痛手ですが,まだまだ使い続けたい愛機であれば,決して無駄な投資ではないでしょう。なにしろ,使い慣れたソフトをこれまで通り使えることで,今までどおりバリバリ使い続けることができるようになるのですから。

生産性を考えれば,下手に知らない OS を入れて置物にしてしまうよりお得です。

新しく学ばなければならないことが多い

「どうせ売っても値段がつかないし,今後はほとんど使うつもりのないマシンだから」とお考えではありませんか? 実は,そういった場合にこそ Linux の導入を考えなおす必要があります。それ自体は無料でも,学習コストを負担する必要があるからです。

Linux は Windows とは全く違った OS です。今までの経験は全く役に立ちません。たとえ表面的な見た目が似ていても,その中身は全くの別物です。「apt」の使い方を知っていますか? 「systemd」って何だか知ってますか? 英語のドキュメントは読めますか? 慣れ親しんだものと違ったものを使いこなすためには,新しいことを恐れず自ら積極的に学ぶ姿勢がなければなりません。

「そんなの面倒くさい」という方,今使っている Windows もイマイチ使いこなせていないという方,悪いことは言いませんので Linux に手を出すのはやめましょう。大切な休日を無駄にしてしまうだけです。多少のお金を出し惜しんで,短い人生の限られた余暇を面倒な作業で潰してしまうのは馬鹿馬鹿しいことです。

もし買い替えや Windows 10 購入ではなく Linux インストールを検討する理由が節約なのであれば,「貧すれば鈍す」に陥っていると言わねばなりません。

思っているほど軽くないし手軽でもない

Linux は軽いらしい,という話を聞いたことがあるはずです。Vista 以降との比較で言えば,これは確かに嘘ではありません。しかし,決して魔法か何かが込められているわけではありません。

もしお使いのパソコンの CPU の性能がイライラするほど低いのであれば,Linux でもやはりイライラしますし,多少マシにはなるかなという程度です。また,ページファイルに頻繁にアクセスするほどメモリが足りないのであれば,Linux でもやはりハードディスクにアクセスしっぱなしになります。ここで過大な期待してしまって失望を味わうことになる人というのは実に多いです。まるで買い換えたかのような劇的な違いというのはありえません。

無理に使い続けてフラストレーションを溜めるよりは,廃棄して資源リサイクルに貢献するほうがよほど賢明なのではないでしょうか。

それに,軽いというのはやっている仕事が少ないということでもあります。Windows にある機能のうち,詳しい人に好まれない機能は省かれていることもあります。たとえば,Windows の「システムの復元」に相当する機能は Linux では搭載されていない場合が多いです。上級者向けのものでは自動アップデート機能さえ使われていないことも多いです。

また,Windows でできることは違うソフトを使うことで Linux でもできる,という話を聞いたことのある方もいるかもしれませんが,こちらは嘘に近いです。動画や音楽などで DRM [ref]Digital Rights Management(デジタル著作権管理)の略で,指定された環境でしか再生できなくするなどして権利者の意図しない利用を防ぐ機能のこと。反対する立場からは Digital Restrictions Management (デジタル制限管理)と呼ばれることもある。[/ref] の関わることの中には Linux では利用を制限されているものもありますし,ゲーム用グラフィックボードは大抵 Windows より性能を引き出せません。「Wine で Windows 用のソフトを実行できる」というのも,複雑なソフト,3D グラフィック機能を多用するソフトでは使えないことが多いです。

逆に Linux でしかできないことも多いのですが,単に家庭のパソコン用 OS として使う上ではあまり関係ありません。

そもそも Windows とは用途が違う

Windows は最初からパソコン用の OS として開発されたもので,今も主にパソコン用の OS として使われています。また,商品として売るためのものであるため,可能な限り市場を大きくできるように作られています。一方の Linux は全く違います。Linux はもともと UNIX という OS と同等の環境が個人でも手軽に使えるように作られたもので,UNIX は研究所などで使われる高性能なサーバ [ref]より正確にはミニコン,ワークステーションなど。[/ref]のための OS でした。

現在の Linux も同様に,殆どはサーバ用の OS として使われています。パソコン用の OS としての利用はあくまでもオマケ程度のものです。

Linux がパソコン用の OS としても使われるようになったのは比較的近年のことで,パソコン用の OS として実用的になったのはここ10年くらいのことです。

また,Linux は出来合いの商品ではなく,多くの人が集まって進められているさまざまな非営利のプロジェクトの集合体です。

誰でも自由に使える一方で,誰もが積極的に学び,更には開発に参加することが期待されているのです。したがって Windows と Linux では,同じ「使いやすい」という言葉でもその意味するところは違います。前者では難しい設定は隠されてユーザはボタンを押せば済むことを意味して,後者では技術的背景を理解したり自分好みに作り変えたりしやすいことを意味します。

Windows XP のサポート期間終了の時もそうでしたが,Linux に手を出してみたものの使いこなせず,こう言ってはなんですが,逆恨みする人が後を絶ちません。彼らも最初は Linux に興味を持って触れたはずであるということを考えると,無責任に Linux への乗り換えを勧める記事は誰にとっても不幸なものであると思います。

同じ Linux に触れるのでも,「Windows XX からの代用」というような時間的用途的に制約された使い方でなければ,また違う出会いになったかもしれないのですから…… ここまで読んでいただいた方には,そのような不幸な道を辿ってほしくありません。Linux は Windows の「代用品」として使えるものではありません。「たけのこの里」を買う代わりに「きのこの山」で我慢するような話ではないのです(と争いの火種を蒔く)。

とまあ,ここまで書きましたが,それでもインストールする人はインストールすることはわかっています。なにしろ私もそうでしたから。

自分の場合,高校生の頃,たしか雑誌の付録についてきた Knoppix で初めて Linux というものに触れてから1ヶ月くらい,Windows Me が入っていたマシンに Debian をインストールしてから一週間くらいで apt-get を使ったり vim で設定ファイルを書き換えたりできるようになりました。それから間もなく Linux に完全に乗り換えて現在に至ります。好奇心と多少の素養さえあれば難しいことは何もありません。慣れれば本当にいい所ですよ。

ようこそ,Linux の世界へ。

17/04/11 記事タイトルを(多少)短く修正,Core m3/i5 の Passmark スコアについての言及などを追記
17/07/24 わかりにくかった部分をちょっとだけ加筆。ところで,まさか今もまだ Vista を使ってる人はいませんよね?

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