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Windows 7 から Linux へ移行すべきでない 7 つの理由

Windows7 の EOL は 2020 年 1 月 14 日

Windows7 のサポート期間は,2020 年 1 月 14 日に終了します。

以降はセキュリティホールが発見されてもアップデートは提供されず,Windows7 を使い続けることは非常に危険となります。

したがって,可能な限り速やかに現在もサポート期間内の OS へと移行する必要があります。

そんな中で,雑誌やウェブサイトなどで GNU/Linux(以下 Linux)への移行を勧める記事を目にした方も多いのではないかと思います。そのような記事を読み,ウェブ検索してこのページにたどり着いたあなたは,「Linux とかいうやつに移行すれば,無料な上に Windows と同じように使い続けられるらしい」と思っていることでしょう。「Windows10 よりも Windows7 に近い使い勝手らしい」と思っている方もいるかもしれません。

この記事は,そのような記事には書かれていない事実を伝え,時間と労力を浪費する人が一人でも減ることを期待して書いたものです。

なお本記事はコンピュータに詳しくない方のために書いたものであるため,用語や解説に不正確な部分があることを予めご了承ください。

Windows7 から Linux へ移行すべきでない 7 つの理由

買い替えたほうが快適である

PC の世界は日進月歩です。

もっとも進歩の著しかった時期に比べれば鈍化したとはいえ,まだまだ急速な発展が続いています。

以下の表を見てもわかるとおり,名前は同じ「Core i5」でも,この9年で倍を超える性能差が出ています。

Core i5-2520M Core i5-8265U Core i5-10210U Ryzen 7 2700U
HD 3000 UHD 620 UHD Vega 10
CPU PassMark 3593 8007 8429 7406
GPU PassMark 315 1073 N/A 1718
物理コア 2 4 4 4
TDP 35 W 15 W 15 W 15 W
プロセスルール 32 nm 14 nm 14 nm 14 nm
RAM 帯域幅 21.3 GB/s 37.5 GB/s 41.66 GB/s 37.5 GB/s

PassMark はベンチマークのひとつであり,実機でのスコアに基づく膨大なデータが蓄積されているため,日本でも価格ドットコムにおいて採用されるなど,広く普及しています。

CPU 性能の差はもちろんのこと,グラフィック性能,メモリや SATA / NVMe の帯域といった要素も加わることにより,体感でも大きな性能差が生じています。

性能が低く不安定な古い PC を使い続けることが仕事の生産性に及ぼす悪影響を否定する人はいないでしょうが,ホビー用途においても,フラストレーションを貯めずに限られた時間を有効活用できるようになります。

あなたは週に何時間をその PC の前で過ごしていますか?

PC は何年も使えます。時間あたりで割れば,5万や10万の出費は価値ある投資であると言えるでしょう。

その問題は最新の Windows10 で改善されているかもしれない

Windows もまた,大きな変化を続けています。

Windows10 は過去の Windows とは異なる位置づけをされています。すなわち,これまではメジャーバージョン(Vista,7, 8…)のリリースごとに基本的な仕様が固定され,大きな変更はされなかったのに対し,Windows10 では同じブランディングを使い続けながらも UI・内部ともに大きな変化が加わっています。

細かい使用感に関する修正も絶えず加えられています。一例を挙げると,Windows8 から初期の Windows10 まででは,アクションセンターからのディスプレイ輝度変更はボタン式で一定の荒い刻みに従って切り替えられるだけでしたが,19H1 アップデートよりスライドバー式となり,無段階調整に対応しました。目立たない変更ではありますが,目の疲れにくい適切な画面輝度を設定できるようになり,使い勝手はかなり改善しました。

同じ「Windows10」でも,今の「Windows10」は4年前の「Windows10」とは別物なのです。

最新の状況を調べてもなお Windows を避ける理由があるかどうか,今一度調べてみるべきです。

それほど「軽く」ない

Windows10 の新しい PC をもう買った,あるいは買う予定の方にとっては,上の2つは的はずれな話だったでしょう。売ってもいくらにもならないから,古い PC を軽い Linux で有効活用するだけだ,と。

「Linux は軽い」と言われることがあります。Windows7 との比較で言えば,これは確かに事実です。同じアーキテクチャでの比較であれば,重量級とされるディストリビューションであっても Windows7 よりはリソース消費が少ない場合が多いです。

しかし,我々が PC が起動するのは OS を立ち上げるためではありません。その上で動作するアプリケーションを利用するためです。そして,同じアプリケーションであれば,おおむね同じリソースを消費します。

リソース消費の大部分はアプリケーションによるものであるため,OS による差異は,実用上はそれほど大きな要素にはなりません。Windows7 で CPU パワーや RAM が足りないなら Linux でもやはり足りなくなるでしょうし,Windows7 でディスクアクセスが遅いのであればやはり Linux でも遅いままです。

さらに,「軽さ」は,パワーユーザには不要な機能が削られている結果でもあります。

復元ポイントに相当する機能は通常ありませんし,場合によっては自動アップデートもありません。これらの機能を追加する場合,その分「重く」なっていってしまいます。さらには,ソフトを探し,インストールし,設定を施すという一連の作業を自分自身でしなければなりません。

Linux は PC を「軽く」する魔法ではありません。

Windows で使っていたソフトの代わりが見つからないかもしれない

Linux では Windows 用の実行ファイル(そのコンピュータ・OS で実行可能な形式に組み立てられたソフトウェア)をそのまま実行することはできません。

Firefox や Thunderbird のように Linux 版も公開されているソフトであればよいですが,そうでなければ,代わりになるソフトを探すところから始める必要があります。

それまで使っていたソフトの代替となるソフトを探すことは簡単なことではありません。

説明を読む限りはよい代替になるように見えても,実際に使ってみると,細かい操作体系やデータの非互換性で,そのままでは移行することはできない場合も少なくありません。

非互換性が他のソフトへの移行を防ぐための鎖となっていることも往々にしてあります(「ベンダロックイン」)。こうした鎖は意図的に仕込まれている場合も多く,移行するときに始めて明らかになります。たとえば,データ構造だけは標準化されていても,実際のレンダリングは完全に非公開・プロプライエタリで,「オープン標準」を謳いながら互換性を意図的に排除している場合があります。

ある程度の知識とベンダロックインを断ち切るという強い意志がなければ,時間と労力を浪費した挙句に「どれもこれも使えない」という結論に至るだけです。

Wine で使えるソフトは限られている

Windows ユーザで Linux に興味をお持ちの方であれば,きっと Wine をご存じでしょう。Wine は,Linux 等の UNIX 系 OS 上で Windows 用の実行ファイルを動作させることができる互換レイヤです。

Wine を使えば Linux でも Windows 用のソフトを使える,と聞いて,Linux への移行を検討するようになった方もいるかもしれません。

たしかに,Wine は急速に開発が進んでいます。Wine で使える Windows ソフトは日に日に増えていっています。

しかしながら,まだ使えないソフトが多くあるのも事実です。技術的に困難な試みであるため,それまでのバージョンでは動いていたソフトが次のバージョンでは動かなくなるといった場合もあります。

動作する場合であっても,必要な設定を自分自身で調べて,細かい調整をすることが必要になることがあります。

Wine は,Linux で Windows のソフトを使えるようになる魔法ではありません。

なお,Wine Application Database を参照すれば,当該ソフトウェアの Wine での動作状況が報告されている場合もあります。

基本的な情報リテラシが求められる

コンピュータのトラブルに遭遇したとき,あなたはどうしますか?

少し前であれば,わからないことはウェブ検索すればすぐに出てきましたが,今では検索で引っかかるのは広告を踏ませるためのページばかりです。

情報がどこにあるのか,情報をどうやって読み取るのかのスキルが要求される時代なのです。

もちろんこれは Linux に限った話ではありません。むしろ Windows についての情報のほうが検索結果の品質はずっと低いです。

しかしながら Windows の場合は Microsoft や各ハードウェアベンダも多くの情報を公開しているため,どの情報が信用できてどの情報が信用できないのかがはっきりしています。Linux の場合,プロジェクト公式サイトでは初心者向けのドキュメンテーションにまで割くリソースがない場合が多く,頼ることができません。個人のブログなどがそれを補完しているものの,作者や専門家による信頼できる情報は(広告会社である Google が理想とするウェブページのありかたに反しているため)検索の上位には表示されない傾向があり,適切な情報を素早く見つけるためには,一定のスキルを要求されます。

何がその問題を引き起こしているのかを理解することなく,検索して上位に引っかかったページにあるハウツーを順番に繰り返していけば,システムはすぐに壊れてしまうでしょう。

基本的な情報リテラシは Windows を使う上でも必要であり,まだ自信がないのであれば,それを培ってからでも遅くはありません。

多くのことを新しく学ぶ必要がある

Windows をそれなりに使いこなし,情報リテラシにも自信があるというあなた。

あなたはきっと Linux も使いこなすことができるようになることでしょう。

しかし,これまでの経験はことごとく役に立たず,また全くの初心者として学び始めないといけないとしたら,どうですか?

近年の Linux ディストリビューションでは使いやすく多機能なデスクトップ環境が採用されており,中には Windows にそっくりなものがあります。

ただし,似ているのは見た目だけです。

その背後にある技術や概念は大きく異なります。Windows Update の代わりに apt upgrade することに始まり(いや,dnf upgrade や pacman -Syyu かもしれません),ウィンドウは X11 や Wayland と Gnome や Qt で描画されていますし,Windows API の代わりにLinux システムコールが待っています。レジストリの代わりに /etc の設定ファイルを編集し,デバイスはファイルのように扱われます。

これら全てを,1から学んでいかないといけないのです。

売っても値段の付かないガラクタをだましだまし使うだけのために,かくも多くのことを学び,時間を費やし,労力を注ぐことは,あまりに途方もない無駄なのではないでしょうか?

Linux はもともと PC 用の OS ではありません。UNIX ワークステーションの代替となる OS として開発が始まったものであり,今でもサーバでの利用が殆どです。

さらに言えば,GNU/Linux は単なる商品でもありません。多くの人の協業の賜物であり,ひとつのコミュニティです。ひとりのユーザであっても,「お客様」ではなくコミュニティの一員として参加し,コミュニティとプロダクトをよりよい方向へと導く一助となることが期待されているのです。

おわりに

さて,ここまで来る前に大半の人が「なんか面倒くさそうだな,やめとこ」と引き返したことでしょう。そうであれば本望というものです。そうだそうだ,Linux なんか使うのはやめておきましょう!

実は Vista EOL の際にも似たようなことを書いています(勢いだけで書いたのでちょっと恥ずかしい)。

じゃあお前はどうなんだと言いますと,高校生の頃に Linux に完全に移行して,もう10年くらいデスクトップ Linux を使い続けています。

言うまでもなくこの文章も Linux マシンで書いています。

ではなぜ Windows の EOL のたびに「Linux を入れるな!」と言い続けているのかと言うと,私も古い PC に Linux を入れて要らぬ苦労をしたからです。

古い PC は性能が低いだけでなく,ハードウェアの動作にも問題がある場合が多いです。未知の環境でよくわからないエラーメッセージに遭遇して,何日もかけて調査した結果ハードウェアの故障が原因だとわかってガックリきたこともありました。

いや,私の場合はなんとか乗り越えてその後の糧とできたからよろしい。問題は,途中で挫折して「Linux は使えない」という結論に至ってしまう人があまりに多いことです。

彼らも最初は純粋な興味を持って試したのかと思うと心が痛みます。むやみにハードルを下げるような情報に接することがなければ,また違う展開になっていたかもしれません。

デスクトップ Linux というアイデアは完全に実用的ですし,別にハッカーでなくても使いこなせます。人によりますが,私は1ヶ月くらいでひと通り使えるようになりました。そして,ひとたび慣れれば Windows よりずっと楽です。そのうえ Linux をデスクトップで常用する中で得た知識と勘所は,Linux サーバから組込機器までに幅広く活かせるのです。

しかし,そのためには,時間の上でも気持ちの上でも余裕を持って臨むことが必要です。

このことをあらかじめ理解したうえで,ちょっと Linux の勉強をしてやるぞくらいの意気込みで正面から向き合えば,Linux はきっとあなたの期待を超えるものを与えてくれることでしょう。

ようこそ,Linux の世界へ。

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