.Org ドメイン管理団体の投資ファンドへの売却案が ICANN に却下される

.Org ドメイン管理団体 Public Interest Registry (PIR) のインターネットソサエティ(ISOC)から投資ファンドへの売却案が,ICANN 理事会で却下されました。PIR はその名の通り公益のための非営利団体であるはずのところ,営利企業化されて競売もなしにまったく無名のプライベートエクイティファンドに売却されることが突如として発表されるという非常に不透明な経緯であり,PIR には 3.6 億ドルもの負債が残る計画であったことから .Org ドメインの運営への影響も指摘されていました。

売却によって .Org ドメインを利用する非営利団体等へ及ぶ影響の甚大さや,ISOC/PIR の説明責任が充分に果たされなかったことが問題視されました。PIR の売却については,世界中の多くの非営利団体や個人はもちろん,ICANN の設立州(準拠法の州)であるカリフォルニア州の司法長官からも反対を受けていました。

PIR は ICANN からは独立した団体であり,設立州もペンシルバニア州であるため,ペンシルバニア州当局の許可を得て PIR が非営利団体から営利団体に転換することは依然として可能ですが,ドメイン名管理について最終的な責任を負う ICANN が「徹底したデューディリジェンス」の結果として明確に否定する判断を示すに至ったことを考えれば,当局の許可を得ることは困難であるものと思われます。

正直なところ,この問題がこのような展開を辿るとは思っていませんでした。ISOC は大きな影響力を持ちインターネットの根幹にかかわる組織であり,おそらく根回しもほとんど終わっている状態であったので,実のところ売却はもはや避けられないだろうと考えていました。草の根の運動だけでここまで持ってくることができたことは,まさにインターネット史に残る快挙かと思います。このブログも .Org ドメインを利用しており,ここのところドメイン移転や収益化に向けてひっそりと試行錯誤していましたが,その必要もなくなるかもしれません。

とはいえ,ISOC と ICANN のガバナンスへの疑問など,今回の件で明らかになった問題はそのまま残っています。IETF も ISOC の下部組織であり,今後別の場面でさらに深刻な危機が訪れても不思議ではありません。ICANN 完全民営化の矢先のできごとであり,インターネットを成り立たせている危ういバランスには今後も注意する必要がありそうです。

ICANN による今回の判断についての詳細な報告は以下から参照できます。

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