さまざまな液晶ディスプレイの動作原理,Wikimedia より引用 (c) Tosaka

IPS 液晶画面の「焼き付き」は簡単に直せる

概要

IPS ディスプレイにおける「焼き付き」の例。グレー単色の画像を表示しているが,直前まで表示していた文字が残存している
IPS ディスプレイにおける「焼き付き」の例。グレー単色の画像を表示しているが,直前まで表示していた文字が残存している

液晶パネルや有機 EL (OLED) パネルにおいても,ブラウン管の焼き付きに類似した表示残存が発生することがあり,一般にこれらも「焼き付き Burn-in」と総称されます [ref]以下この意味ではカギ括弧付きで言及します。[/ref] [ref]What can I do to prevent image retention or burn-in | Pioneer Support FAQ 19/12/20[/ref] [ref]Dell LCD TVでの画像の焼き付き、残像、ゴーストの防止または消去 | Dell 日本 19/12/20[/ref]。他に残像,ゴースト ghosting,retention,persistence などとも言及されます [ref]特に確立した用語はないようですが,検索ヒット数を見ても,永続的なもののみを burn-in と区別する場合は,(image / screen) retention の語を使う場合が多いようです。Wikipedia 英語版では image persistence を見出し語にしています。この2つに直接対応する日本語訳は使われていません。[/ref]。

ただし,そのメカニズムや症状の程度はパネルの種類により大きく異なります。IPS パネルVA パネル有機 EL パネルでは,家庭やオフィスにおける通常の使用でも「焼き付き」が発生することがあります。

このうち,IPS パネルと VA パネルに見られるのは一時的なものであり,簡単に元に戻すことができます。

テレビ,PC モニター,ノートパソコンやタブレットのパネルはほとんどが液晶パネルですが,スマートフォンには有機 EL パネルのモデルも多いため,事前に確認する必要があります。

パネルの種類による原理の違い

(ブラウン管)

ブラウン管は,高エネルギーの電子ビームを蛍光体の塗布されたパネルに照射することで表示を実現しています。

ブラウン管の(原義・狭義の)焼き付きは,電子ビームによって蛍光体が劣化することで生じます。これは不可逆的な変化であるため,直すことはできません。

液晶

液晶パネルは,画素に封入された液晶に微弱な電荷を与えることで状態(相)を変化させ,LED や冷陰極管によるバックライトで照らすことで表示を実現しています。

さまざまな液晶ディスプレイの動作原理。Wikimedia より,CC BY に基づき編集・再配布 (c) Tosaka
さまざまな液晶ディスプレイの動作原理。Wikimedia より,CC BY に基づき編集・再配布 (c) Tosaka

IPS

使用状況や機種によっては使用が困難になるほど激しい「焼き付き」が発生することがありますが,これは同じ表示が続くことにより液晶内の成分が偏在したり [ref]液晶モニターの残像現象について | EIZO株式会社[/ref],意図しない電荷が蓄積したりする [ref]Recommendations for reducing image persistence on large-screen LCDs (PDF), NEC Display Solutions[/ref]ことが原因であるとされており,簡単に直すことができます。

VA

PC 用ディスプレイとして使われることは少ないためあまり話題になりませんが,一般に IPS パネルより「焼き付き」が発生しやすいとも言われています [ref]価格.com – 『焼き付き?』 三菱電機 Diamondcrysta WIDE RDT271WV(BK) [27インチ] のクチコミ掲示板[/ref]。その一方で,レビューサイト RTINGS.com による検証では,実用上「焼き付き」の心配はないという結果になっています [ref]Image Retention on TVs: Burn-in(再掲)[/ref]。発生した場合でも,やはり簡単に直すことができます。

TN

通常の使用では問題になるほどの「焼き付き」は見られません(おそらく)。

有機 EL

有機 EL は,それぞれの画素自体が発光して表示を実現しています。有機 EL は原理上 LED の一種ですが,通常の LED は無機素材が使われているところ,技術的・コスト的制約から耐久性の劣る有機素材が使用されています(無機 LED を使用したものは「マイクロ LED (microLED)」ディスプレイと呼ばれ,こちらも実用化へ向かいつつあります)。

自然に「焼き付き」が発生しますが [ref]iPhone X の Super Retina ディスプレイについて – Apple サポート[/ref],すぐに使用を妨げられるほどではありません。ただし,一時的な現象に加えて有機 EL では発光体の劣化(発光=高明度色表示時間の長い画素と短い画素で徐々に明るさに差が生じる)も原因となり [ref]Seven problems with current OLED televisions – CNET[/ref] [ref]OLED Burn-in: Causes, Fixes, and What You Need to Know – Reviewed.com Televisions[/ref],発光体の劣化に起因する「焼き付き」は直すことはできません

劣化した有機 EL ディスプレイ,Wikimedia より
劣化した有機 EL ディスプレイ,Wikimedia より

※ 液晶パネルでも,デジタルサイネージなどの特殊な用途で長い期間に渡って同じ表示が続けば,部材の劣化による永続的な「焼き付き」が発生することがあります。これは直すことができません。

※ 「ミニ LED (mini-LED) ディスプレイ」は,いくつもの区画に分けたバックライトを表示内容に応じて動的に制御することによってコントラストの改善を図ったものです。画素自体が LED となっている「マイクロ LED (microLED)」とは異なり,あくまでも従来と同じ(たとえば IPS の)液晶ディスプレイです[ref]Mini-LED is here: How smaller lights could lead to big TV improvements – CNET[/ref]。したがって、通常の液晶ディスプレイと同じ対策を利用できます。

※ Surface Pro 4 や Let’s note CF-RZ4 など,液晶パネルとデジタイザの間を樹脂の接着剤で埋めて視認性を改善するオプティカルボンディング(ダイレクトボンディング) [ref]EIZOのオプティカルボンディング技術 | EIZO株式会社[/ref]液晶パネルを採用したモデルで,経年により画面が黄ばむ場合があることが知られています。これは接着剤の劣化が原因と考えられており,直すことはできません。

※ 冷陰極管(CCFL)バックライトを採用している古い液晶パネルで,冷陰極管の劣化により画面にムラや黄ばみが生じる場合があります。これも直すことはできません。

IPS または VA パネルの「焼き付き」を直すには

様々な色(たとえばRGB白黒)を数十分から数時間程度のあいだ均等に代わる代わる表示させることで画面表示のクセを取り除くことができます。

※点滅にご注意ください

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「焼き付き」を直す GIF 動画

GIF 動画を用意してみました。お使いのディスプレイと同じ解像度(なければ同じアスペクト比 [ref]モニタ解像度 図解チャート 一覧[/ref])のものをダウンロードのうえ,フルスクリーン表示し,表示されずに残っている隙間がないことを確認の上ご使用ください [ref]なお iOS の場合,「写真」アプリが GIF 動画に対応していないため,ブラウザのままで全画面に表示されるよう調整してお使いください。[/ref]。

なお1)全画面表示時に拡大ができ2)そのときスクロールバーなどが表示されない一部の環境では,どれを使用しても違いはありません。

その他(クリックして展開)

「焼き付き」を防ぐには

液晶パネルの一時的な表示異常と有機 EL の画素劣化のいずれについても,ディスプレイの電源をこまめに切ることが防止に役立ちます。

Windows の場合,「画面とスリープ」設定から変更できます。

macOS の場合,「省エネルギー」設定から変更できます。

Linux の場合,デスクトップ環境の設定で変更できます。xset を自動実行することで対応することもできます。

Android の場合,画面設定から変更できます(ベンダ・機種・Android バージョンにより異なります)。

iOS の場合,「画面表示と明るさ」設定から変更できます。

IPS または VA の液晶パネルで,一時的な「焼き付き」を生じやすいものの場合は,スクリーンセーバを併用することでも改善できます。


以下元の日記。「IPS パネルは壮絶に「焼きつく」けど,簡単に元に戻せる」というタイトルでしたが,迷い込んできた人のための解説がメインになって久しいので改題しました。

いつものように昼なお暗い魔窟 a.k.a. 自室で PC 作業に励んでいたある日のこと。気分転換にすこし散歩に出て,30分ほどして帰ってきたら,2枚ある液晶ディスプレイの両方が壊れていました。具体的には,画面が激しく点滅し(ちらつき),縦縞状のノイズが画面全体に広がり,四隅は白っぽく変色しているという状況。しかも,開いていたウィンドウの像が,ウィンドウを動かしてもくっきりと残ったままです。

「げげっ。なんじゃこりゃ!」

少し前からちらつきが気になってはいて,だましだまし使っていたのですが,ここまで来てしまうともう使いものになりません。静電気のいたずらである可能性を考え,PC とディスプレイの電源ケーブルを一晩抜いたままにして放置してみるも,残念ながら改善は見られず。「これはもう修理に出すしかないな……」

幸い2枚とも標準で3年保証付きで交換の早い法人向けモデルですので,修理直行です。保証書を探して,たまたま取っていたダンボールも引っ張りだして。しかし何が原因だったんだろう。先月変えたグラフィックボード? しかし,グラフィックボードが液晶を破壊するなんてことがあるんだろうか。それにそうだとしたらグラフィックボードも調査を依頼しないと……などと考えつつ,最後の悪あがきとして念の為いろいろ検索してみました。すると,こんな気になる情報を発見。[PCモニター]画面表示がバグったDell U2410がLCDコンディショニングで復活! | トラエラ流 WEB CMの作り方

しかし画面には少し前に表示していたGoogleの画面の焼き付きと黒いはずの背景も黄ばんでいます。また、LEDの明るさもチカチカと安定せず、一見故障にしか見えない画面表示となっていました。

そう,そう,こんな感じなんですよ。完全に壊れ…え? 故障じゃないの?

どうやら,IPS 液晶は TN 液晶と異なり「焼き付く」ようです(そう,この液晶は2枚とも IPS です)。なお,VA 液晶も同様の「焼き付き」をしやすいらしい。参考123

しかし幸運なことに,「焼き付き」と呼ばれているこの現象は,本来の意味であるブラウン管の焼き付きとは原理が異なり,簡単に元に戻すことができるようです。その方法とは,RGB・黒白を順番に表示させることで液晶についたクセを取るというもの。なんか胡散臭い気がしなくもありませんが,どうせ修理センター行きの予定です。モノは試し。私の使用している D 社の液晶ディスプレイでは,「LCD コンディショニング」という名前でディスプレイの標準機能の一つとなっていますので,これを試してみましょう。それでは,とりあえず1時間。

……んで,その結果なんですが,これがなんと完全に元通りに直ってしまったのです。いやはやなんともお恥ずかしい限り。修理を申し込む前で本当によかった!

記憶の糸をたぐり寄せてみると,たしかに数週間前に液晶の自動電源オフまでの時間の設定を10分から60分に変更したのでした。なにがグラフィックボードじゃ。仕組みがよくわかりませんが,ともかくこの変更により「焼き付き」が蓄積するようになって,ついには今回のような現象が起こるに至ったのでしょうか。

しかし,一見万能の IPS パネルにこんな弱点があったとは。対策は LCD コンディショニングを実行して放置するだけとはいえ,突然表示がおかしくなると焦りますし,作業も滞ります。個人で使う分には IPS のメリットはどうしても捨てがたいですが,オフィスなどで仕事のために使う場合はあえて TN 液晶を選んだほうがいい場合もあるでしょう。

[2018/01/06追記] OLED ディスプレイの中古スマートフォンを購入したところ,「焼き付き」症状があったので調べてみました。残念ながら,有機 EL の場合は発光体の劣化も原因となっており [ref]Seven problems with current OLED televisions – CNET(再掲)[/ref] [ref]OLED Burn-in: Causes, Fixes, and What You Need to Know – Reviewed.com Televisions(再掲)[/ref],完全な修復は不可能であるようです。

レビューサイト RTINGS.com による検証では,(使われたディスプレイは各1台であることに留意する必要がありますが)24時間x5週間程度で液晶ディスプレイでは見られない永続的な「焼き付き」が目立ち始めるという結果になっています [ref]20/7 Burn-In Test: OLED vs LCD VA vs LCD IPS[/ref]。実際に私のスマートフォンでも1時間ほどコンディショニングを試してみましたが,ほとんどなくなりませんでした。

最近では改善されているとのことですが,2017年末発売の iPhone X でもなお問題とされており [ref]iPhone XはOLEDの焼き付き低減にも「業界最高を目指した」。ただやっぱり「静止画の長時間表示は避けて」 – Engadget 日本版[/ref],程度こそ変われど現在のところ有機 EL では避けて通れない問題のようです。有機 EL ディスプレイは扱いに気をつける必要がありそうです。

結論。IPS パネルは「焼き付き」ます。メーカーやロットなどにもよるようですが,私の持っている D 社のディスプレイはいずれもかなり壮絶に症状がでるようです。でも,CRT の(本来の意味での)焼き付きとは異なり,簡単に元に戻せます。画面が点滅したり変な縞が出たりとどう見ても故障にしか見えない症状が出ても,落ち着いて「LCD コンディショニング」を実行してみましょう。ディスプレイの標準の機能として搭載されていない場合は,こちらの動画を使わせてもらいましょう。

日頃の対策としては液晶のこまめな電源オフやスクリーンセーバの利用が考えられます。あまり頻繁に電源のオンオフを繰り返すとバックライト(今時は LED が普通であるとはいえ)やインバータへの影響が心配なので,スクリーンセーバも併用したほうがいいかもしれません。CRT の絶滅した今ではもはや装飾としての価値しかないと思われがちですが,猫も杓子も IPS の今,改めて見直されるべきかもしれません。

主な変更履歴
2018/01/06 日記として書いたごちゃごちゃした記事ながら,お困りの方とおぼしきアクセスが今でも多いので,概要と対策用 GIF 動画を追加。ついでに有機 EL での状況について追記。
2019/09/16 CSS 修正に伴い体裁が乱れていることに気づいたのでちょっと修正・追記。
2019/10/28 一部オプティカルボンディング(ダイレクトボンディング)液晶の黄ばみ問題について少し追記。
2019/12/15 5年越し……5週年記念? のタイトル変更。このブログの他の記事と違ってマニアックでない方のアクセスも多いようなので,原理等について簡単に追記。バックライトの黄ばみについても今更追記。
2020/09/06 文体を「ですます」調に統一。

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