3大キャリアの Android 端末に捜査当局が GPS 位置情報をこっそり抜ける機能が搭載へ

携帯のGPS情報、本人通知なしで捜査利用 新機種から:朝日新聞デジタル(2016/5/16)

  • 総務省の個人情報保護ガイドライン改訂に基づき,捜査当局が対象者に通知せず GPS 位置情報を取得できる端末が登場する。
  • ドコモは次に発売する端末の一部から対応。これまでに発売した端末についてもソフトウェアアップデートで対応させる方針。KDDI,ソフトバンクも対応の意向。
  • ドコモによると,GPS をオフにしている場合や iPhone ではこれまでどおり取得できないという。

 まあ政府では既定路線でしたし,位置情報の捜査での利用自体についてはある程度は仕方ないという感もありますが,こんな重大なことを総務省のガイドライン改訂だけで早速変えちゃうんですねえ。ノリノリですねえ。キャリア・メーカ側から法廷闘争どころか何の抵抗も見られず丸飲みしたことは,今までを考えれば予想通りとはいえ,それでもがっかりしました。
 日本において,通信の秘密やプライバシへの権力の介入は欧米と比べても比較的少ない印象がありますが,自由であるということの重要性が認識されているからではなく,単にこれまで為政者にそれを利用する発想や能力がなかっただけという,わかりやすい例でしょう。同時に,米国とは違い,企業には政府の方針に(たとえ形ばかりであろうとも)抵抗するような気骨はなく,また市民の側でも大多数の人は自らの自由の重要さについて考えてはいない,という実情が現れました。
 なお,あくまでも Android のみが対象となり,iPhone ではこれからもこっそりと位置情報を抜くことはできないようです。これは,AOSP をベースに各メーカが手を加える Android とは異なり,iPhone (iOS) ではキャリアの意向に基づいてシステムに手を加えることはできないというのが理由でしょう。不自由であることが却って自由の保護に役立つとは皮肉なことです。
 また GPS をオフにしていれば位置情報は取得されないとのことですが,技術的な問題や政治的判断で今のところできない/やらないだけなのか,何か法的な判断に基づくものなのかはよくわかりません。たぶん前者だと思いますが。
 救いは,今のところ「義務」ではないことです。すなわち,キャリア以外から日本メーカ以外の端末を購入するのであれば,この問題を持たない Android 端末を今後も容易に入手可能でしょう。MVNO 普及のおかげで,日本の電波法規に適合した,キャリアとの契約によらない白ロムの選択肢が増えています。そもそも Android (と Google アカウント)自体がプライバシという面では問題が非常に多いのですが,アプリの対応 OS,価格や電波法規などから Android 端末を持たねばならない局面が多いのも事実です。そうした場合においては,技適取得済みのグローバルモデル,たとえば Nexus シリーズなどを使うことが,よりマシな(そしてより自由を求めているという意思表示になる)選択肢となるでしょう。

Twitter などを眺めているとこの件について誤解している人が多いようなので,補足情報。

  • 記事にあるとおり,令状はこれまで通り取る必要があります。充分な精査がされずこの仕組み自体有効に機能していないという指摘もありますが,それは制度の問題とは別の話。
  • 基地局ベースの位置情報はこれまでも本人に通知されることなく捜査に利用されています [ref]例えばこの記事 Listening:<通信事業者指針>改正へ 携帯位置情報を通知なく捜査利用 – 毎日新聞 – http://mainichi.jp/articles/20150525/org/00m/040/006000c[/ref]。ただし基地局情報と GPS データでは精度が全く違います [ref]基地局による測位は数百メートル〜数キロメートルの精度と言われています。例えば秋葉原でいうとラジオセンターから TSUKUMO eX. までが300メートルくらいで,それが二次元に……いやそっちじゃなくて……広がっているのです。しかもそれは最も正確に測定できた場合の話です。一方でスマートフォンの A-GPS は,概ね10メートル程度までの誤差でトラックでき,空がよく見えて静止していればほぼぴったりになることもしばしばです。[/ref]。また,利用されていたという事実は利用することに問題がないという根拠にはならないという論点もあります。

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