突然ながら好きな漫画を紹介する――『マヤさんの夜ふかし』

ご覧の通り,このブログは技術系の話題が中心です。それがなぜ突然最近知った面白い漫画の紹介をするかというと,まぁそもそもテーマを限定しているわけではないということもありますが,この漫画がすぐれて「あの頃のインターネット」の空気を感じさせる漫画だからです。

Ecce homines (et Skype)

保谷伸さんによる『マヤさんの夜ふかし』は,タイトルの通り,フリーターの「マヤさん」が夜な夜な夜ふかしをするだけの話です。そして,漫画家志望の「豆山くん」と“スカイペ”でだらだらと取りとめのない話をしては夜を明かします。

通話ではなくテキストチャットが主ではありましたが,私も高校生くらいの頃は友人らと Skype でゆるく繋がっていたものです――ネットで知り合った人と話し込むこともありました。懐かしい。進学して余裕のない日々を過ごす中でログインすることも減ってゆき,いつしかアカウントも忘れてしまいましたが,皆さん今はどうしているのでしょうか……

最近の人は LINE を使うのでしょうが(余談ですが LINE スタンプもあるようです),基本的に皆 PC からログインしていた当時の Skype では,ログイン時にはリアルタイムの会話がされる一方でログアウトやステータス非表示で放置することもできるなど,社会不適合者にも優しい,今とはだいぶ異なる文化があったものです。

「マヤさん(所間マヤ)」は都内の飲食店でバイトする一人暮らしのフリーターですが,実は魔女,ホンモノの魔女です。そのことを隠そうとしないどころか,自己紹介の一言目からして「私は魔女」です。しかし極端な言葉の足りなさから行き違いがあり,いつも話をしている豆山くんにさえ信じてはもらえず,「変な設定を貫き通す自称魔女の痛い人」だと思われています。家に帰ったらヘッドフォンのケーブルの長さが行動範囲でしたが,2巻の最後で“ワイヤレスヘッドセット¥7,430(アマゾンで購入)”を手に入れたことで自由に動けるようになりました(……部屋の中でスイカ割りしようとするなど)。

「豆山くん(豆山苗)」は漫画家を目指す女性で,東北の実家で日々漫画を描いています。単に「豆山」と呼ばれていることが多く,さらに縮めて「豆」と呼ばれることもあります。初期設定では男性にする案もあったようで,その名残りか見た目も口調も男性的です。マヤさんよりやや年下で,後輩のような関係性です。奇矯な振る舞いをするマヤさんに対する常識人ポジションではありますが,深夜に男を連れ込んで騒ぐマヤさんの隣人に静かに怒りを燃やし徹底抗戦を主張するなど,むしろマヤさんよりこじらせた人物という一面もあります。

なお3巻を通して主要登場人物はマヤさんと豆山くんの2人だけで,しかもだいたいの話は部屋の中だけで完結するなど圧倒的インドア派の漫画です。そのため,いかにも漫画的なストックキャラクター・定形表現からは離れた立体的な人物描写がなされています。『マヤさんの夜ふかし』は,この人物それ自体を描くことのうまさによって成り立っている作品だと思います。

描き込みとユーモア

丁寧に描かれた背景も特徴です。

おかげで快適そうな部屋の雰囲気が出ているのはもちろん,登場人物がその部屋でどのように暮らしているかまで想像させ(たとえば豆山部屋の猫型の掛時計や,足元に積まれた漫画の山に注目),キャラクター造形にさらなる立体感を与えています。もちろん単純に,見た目に華やかで何度読み返しても楽しめるという良さもあります。

画だけでなくセリフもまた魅力的で,思わずニヤニヤせずにはいられない小ネタが矢継ぎ早に繰り出されます。「夜中に Skype で雑談するだけ」という基本設定とは裏腹に,とても密度の高い作品に仕上がっています。

現在は『まくむすび』連載中

久々に新品で買った素晴らしい漫画でありますが,残念ながら人間どもには理解されなかったようで,3巻で「打ち切り」(作者 Twitter より)となり,現在は「週間ヤングジャンプ」にて高校演劇部での青春群像を描く『まくむすび』を連載中とのことです。

まったく毛色の異なる作品ですが,入念に作り込む作風は同じようなので,こちらも気になるところです。

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