DeNA 剽窃記事サイト事件を受けて,改めて DuckDuckGo を推奨する

DeNAが9メディアの記事を非公開に、転用奨励で批判相次ぐ | ロイター
DeNA、健康・美容サイト「WELQ」運営見直し 内容に「医療デマ」と批判相次ぎ
DeNA、「WELQ」騒動で「MERY」以外の9媒体を非公開に–守安社長「私自身の判断の甘さ」 – CNET Japan

 無内容で嘘偽りに満ちた極端に低品質な記事を,手段を選ばない SEO で強引に検索結果の上位に表示させる。そしてその内容は他のサイトからの剽窃――言語道断の所業です。
 しかし間違えてはいけないのは,こうした行為をしているのは DeNA だけではないということです。DeNA の場合,「東証一部上場の大企業がこんなことをしている」ということ,また資本がきわめて大きいことからいわば成功しすぎたために,結果として世間の耳目を集めているだけであり,同様のことをしている企業および個人は星の数ほど存在します。DeNA が事業を畳むなり倒産するなりしたところで,第二第三の DeNA がその地位を引き継ぐだけです。

 では,そもそもの原因はどこにあるのか? 考えるまでもありません。「ウェブでバカを騙すのはカネになる」から,これに尽きます。
 スマートフォンやタブレットの急速な普及によって多くの人がウェブにアクセスできるようになった一方,消費者のリテラシ――知識,警戒心――は今なお未発達であり,コンテンツを提供する事業者との間には情報の非対称性が広がっています。人々は新しいツールで得られる情報を貪欲にむさぼっています。質は一切問われません。多くのアクセスを得られるコンテンツである掲示板などのコピペブログの記事は,既にソフトウェアによる自動生成が一般的です。文章自体が自動生成であること,すなわちワードサラダであることも珍しくありません。こんなあからさまなゴミであっても,多くの人々にアクセスされ,場合によっては読まれるのです。DeNA の記事群も,ゴミ情報という点では同じであっても,人の手によって書かれていて文法・文脈的破綻が比較的少ないという点では,まだマシな方です。資金力さえあれば,毒,すなわち世論や消費行動の誘導を意図した偽情報を盛り込むことさえ,きわめて容易です。
 この怒涛のアクセスをカネに変える魔法がアドネットワーク(そしてアドエクスチェンジ)の広告です。これは広告出稿者と広告掲載者の間に入る一種の広告代理業であり,出稿者と掲載者が直接交渉や契約をせずに広告掲載ができるようになります。掲載者としてはページにちょっとした html タグを貼り付けるだけです。コンテンツの質なんてどうでもいいですし,かかるのは僅かなサーバ代・ドメイン代くらいです。あとは獲物が罠に誘い込まれて広告をクリックないしタップするたび儲けが生まれるのです。ゴミからカネが生まれる。なんと素晴らしい錬金術でしょうか!
 そして,消費者が情報にアクセスするためにまず訪れる場所が検索エンジン 1であり,検索結果の上位に表示されること,同じ検索結果ページに表示される他のページに何か加えたような内容にすることによってアルゴリズムに「他のページより価値がある」と認識させることが,錬金術の効率を高める一番の近道なのです(ゆえに他のサイトからの剽窃が多くなることは当然の帰結です)。

 もちろん,検索エンジンのプロバイダ,Google や Microsoft 等にとって,検索結果へのゴミ情報の氾濫は看過できるものではありません。提供する検索エンジンの価値を貶め,競合に対する競争力を失わせることにつながるからです。実際,時折アルゴリズムの改良によってスパムの排除が試みられています
 しかし,大手の検索エンジンプロバイダは同時に巨大な広告事業者でもあります。たとえば Google はその収益の9割以上を広告事業から得ています。先述の通り,検索エンジンに現れるスパムは広告収入が目当てであり,その広告収入の一部は検索エンジンプロバイダ自身の利益でもあります。つまり,抜本的な対策が困難であるばかりか,最小限度の対策に留めることによってこそ利益を最大化できる構造となっているのです。これらの広告表示には,出稿された広告を配信している同じ会社が検索エンジンとして収集した閲覧者の情報が利用されています。
 加えて,検索エンジンは特定のひとつのサービスが圧倒的なシェアを握りやすい傾向があります。独占的な地位を得ているサービスは国により異なりますが,1位のサービスは80%以上のシェアを握っていていることも普通です。また,グローバルでは Google が約76%(2016年12月現在)を占めており,全体でも独占構造になっています。シェアが奪われる見込みがなく,またシェアを奪える見込みもなく,検索エンジンの間に競争が働かず,消費者に対するサービスの改善への動機付けが存在しないということも,こんにちの混沌とした状況に至った一因と言えるでしょう。

 今のウェブ広告の仕組み自体が原因となって生まれている状況であるため,将来については悲観せざるを得ません。無内容なスパムに悩まされることがなくなるのは,金銭という動機付けが失われるとき,すなわち今のウェブ広告の仕組みが破滅するときであるので,これはかなり先になりそうです。
 消費者にできるのは自らの行動に自覚的になることです。中身のないサイトに不用意にアクセスして収益をもたらすことのないようにすべきです。Firefox のユーザであれば Hide Unwanted Results of Google Search が役立つでしょう。また,固定化したシェアを揺るがして検索エンジンプロバイダの間の競争を促すことも必要であるはずです。日本であれば Google や Yahoo! Japan の代わりにシェアの低い Bing を使うようにするだけでも違いますが,理想的なのは DuckDuckGo を利用することです 2。DuckDuckGo はプライバシの重視と意図的な操作のない(フィルタバブルのない)検索結果を売りとする検索エンジンです。日本語での検索結果の品質はまだまだといったところですが,概ね実用的な水準に達しています。現在のところ DuckDuckGo は自前のクローラに加え Yandex など他の検索エンジンの検索結果も利用しており,スパムもありますが,少なくともスパムサイトと利害が一致してはいません。もしも DuckDuckGo のようなサービスのシェアが大手サービスに並ぶような事になれば,他の検索エンジンプロバイダに対するこれ以上ないほどの強烈なメッセージとなることでしょう。

16/12/03 加筆修正。タイトルの「コピペ」が不正確であったことから,「剽窃記事」に修正。

Notes:

  1. この記事では本来の意味の検索システムとしての検索エンジンのことではなく,ウェブ検索サービスを提供するポータルサイトの意味でこの語を使っていることを註記しておきます。
  2. 同様の存在として Searx というものもあり,こちらもおすすめです。Searx は DuckDuckGo と違いサーバサイドのシステムそのものが自由ソフトウェア(AGPLv3)として公開されているのが特長です。ただしこちらは検索エンジンとしての独自性を志向してはおらず,既存の検索エンジンの検索結果を組み合わせて使用するメタ検索エンジン以上のものになることを意図したプロジェクトではありませんので,既存の検索エンジンに与えるインパクトは限定的でしょう。

DDoS 攻撃者を「サイバーフーリガン」と呼んではどうか

 最近また DDoS 攻撃が増えているようです。
 DDoS 攻撃は一般に面白みのない単純な力技で,わずかな代金で攻撃を請け負う業者まで存在します。ボットネットの構築から自前でやるにしても,ソースコード付きのソフトウェアがウェブ上で流通しており,多くの人のセキュリティ意識は依然として非常に低いという現状があって(そう,専門家でもなんでもない普通のおっさんおばさんが相手なのです),脆弱性を抱えた情報家電も多く存在していることから,技術的にはそのへんの中学生でも簡単にできてしまいます。いにしえのハッカー・クラッカー論争は置いといても,このダサさを恥ずかしく思わない,あるいはダサいと気づかない程度の者は,いかなる定義によってもハッカーの範疇に含まれることはありえないでしょう。
 また,彼らは技術のみならず「抗議」の対象についてもしばしば無知です。たとえば,捕鯨への反対を大義名分に掲げつつも,実際に攻撃を受けているのは何の関係もない(しかし外国人への知名度は高い)組織が殆どです。その一方で,どことは書きませんが,捕鯨に関係の深い組織の大半は特に攻撃が観測されていません。そもそもターゲット自体が見当違いであり,抗議としての体をなしていないわけです。
 どこかで似たようなものを見たものがありますね。サッカーにおけるフーリガンです。彼らは必ずしもチームの熱心なファンというわけではありません。しかし,欠かさず試合を観戦し,ちょっとしたきっかけを目ざとく掴んではそれを理由にして大声で叫んで暴れます。それを見た他のフーリガンもまた集団心理で同調して暴れ始めます。赤信号もみんなで渡れば怖くないというわけです。そうして堰を切ったように暴れる者が増えてゆき,まもなく馬鹿げた大騒ぎへと至るのです。暴力の対象は問わず,無関係の人をも巻き込みます。
 思うに,近ごろの DDoS 攻撃者も似たようなものでしょう。誰それ構わず手当たり次第に DDoS 攻撃を仕掛ける攻撃者には何の美学も見いだせません。見えるのは自己顕示欲だけです。彼らをハクティビストと呼ぶのは本物のハクティビストに失礼というものです。彼らは完全に区別された名前で呼ばれなければなりません。また,動機が自己顕示欲であれば,ハクティビストというある種の“ブランド”から切り離してしまい,ダサくて取るに足らない存在として扱うことで,安易な違法行為に走る理由が失われることが期待できます。一つのアイデアとして,安直ですが,「サイバーフーリガン cyber hooligan」という呼び名を提案してみます。

3大キャリアの Android 端末に捜査当局が GPS 位置情報をこっそり抜ける機能が搭載へ

携帯のGPS情報、本人通知なしで捜査利用 新機種から:朝日新聞デジタル(2016/5/16)

  • 総務省の個人情報保護ガイドライン改訂に基づき,捜査当局が対象者に通知せず GPS 位置情報を取得できる端末が登場する。
  • ドコモは次に発売する端末の一部から対応。これまでに発売した端末についてもソフトウェアアップデートで対応させる方針。KDDI,ソフトバンクも対応の意向。
  • ドコモによると,GPS をオフにしている場合や iPhone ではこれまでどおり取得できないという。

 まあ政府では既定路線でしたし,位置情報の捜査での利用自体についてはある程度は仕方ないという感もありますが,こんな重大なことを総務省のガイドライン改訂だけで早速変えちゃうんですねえ。ノリノリですねえ。キャリア・メーカ側から法廷闘争どころか何の抵抗も見られず丸飲みしたことは,今までを考えれば予想通りとはいえ,それでもがっかりしました。
 日本において,通信の秘密やプライバシへの権力の介入は欧米と比べても比較的少ない印象がありますが,自由であるということの重要性が認識されているからではなく,単にこれまで為政者にそれを利用する発想や能力がなかっただけという,わかりやすい例でしょう。同時に,米国とは違い,企業には政府の方針に(たとえ形ばかりであろうとも)抵抗するような気骨はなく,また市民の側でも大多数の人は自らの自由の重要さについて考えてはいない,という実情が現れました。
 なお,あくまでも Android のみが対象となり,iPhone ではこれからもこっそりと位置情報を抜くことはできないようです。これは,AOSP をベースに各メーカが手を加える Android とは異なり,iPhone (iOS) ではキャリアの意向に基づいてシステムに手を加えることはできないというのが理由でしょう。不自由であることが却って自由の保護に役立つとは皮肉なことです。明治時代,不平等条約が改正されて治外法権が無くなれば日本で唯一表立って体制批判を行える存在である外国人知識人がいなくなってしまう,という理由から,民権派の間では不平等条約改正に反対する意見も根強かったそうですが,今の日本はまだそんなレベルなのでしょうか。
 また GPS をオフにしていれば位置情報は取得されないとのことですが,技術的な問題や政治的判断で今のところできない/やらないだけなのか,何か法的な判断に基づくものなのかはよくわかりません。たぶん前者だと思いますが。
 救いは,今のところ「義務」ではないことです。すなわち,キャリア以外から日本メーカ以外の端末を購入するのであれば,この問題を持たない Android 端末を今後も容易に入手可能でしょう。MVNO 普及のおかげで,日本の電波法規に適合した,キャリアとの契約によらない白ロムの選択肢が増えています。そもそも Android (と Google アカウント)自体がプライバシという面では問題が非常に多いのですが,アプリの対応 OS,価格や電波法規などから Android 端末を持たねばならない局面が多いのも事実です。そうした場合においては,技適取得済みのグローバルモデル,たとえば Nexus シリーズなどを使うことが,よりマシな(そしてより自由を求めているという意思表示になる)選択肢となるでしょう。

Twitter などを眺めているとこの件について誤解している人が多いようなので,補足情報。

  • 記事にあるとおり,令状はこれまで通り取る必要があります。充分な精査がされずこの仕組み自体有効に機能していないという指摘もありますが,それは制度の問題とは別の話。
  • 基地局ベースの位置情報はこれまでも本人に通知されることなく捜査に利用されています 1。ただし基地局情報と GPS データでは精度が全く違います 2。また,利用されていたという事実は利用することに問題がないという根拠にはならないという論点もあります。

Notes:

  1. 例えばこの記事 Listening:<通信事業者指針>改正へ 携帯位置情報を通知なく捜査利用 – 毎日新聞 – http://mainichi.jp/articles/20150525/org/00m/040/006000c
  2. 基地局による測位は数百メートル〜数キロメートルの精度と言われています。例えば秋葉原でいうとラジオセンターから TSUKUMO eX. までが300メートルくらいで,それが二次元に……いやそっちじゃなくて……広がっているのです。しかもそれは最も正確に測定できた場合の話です。一方でスマートフォンの A-GPS は,概ね10メートル程度までの誤差でトラックでき,空がよく見えて静止していればほぼぴったりになることもしばしばです。

国民に対する国家の暖かな見守りによって平和と安全を実現するための穏健なる提案

著作権侵害サイト遮断 政府が導入検討、海外経由に対応  :日本経済新聞

 まだ確定した話ではありませんが,昨今の政治情勢を見る限り,きっと実現することでしょう。これはまさに私が待ち望んでいたものです。フィルタリング導入という第一歩に加え,同じフレームワークでの用途拡大という第二歩を踏み出すことによって,わが国のあるべき姿の実現への道筋が確固たるものになるのです。実現すれば,改正通信傍受法や特定秘密保護法と並び,わが国を守る強力な武器になることでしょう。
 
 この機会に,私の持つ意見と提案について述べましょう。
 
1. インターネットの監視・フィルタリングを推進せよ
 今やインターネットは人々の生活に欠かせないものとなりました。しかし,今のインターネットは美しい場所とはいえません。それどころか,あらゆる犯罪や悪徳が渦巻く,この世で最も醜悪な場となっています。それもただ醜いだけではありません。凶悪な犯罪者たちが違法な情報を得たり連絡を取り合ったりするのに使う,極めて危険で有害な場でもあるのです。残念ながらわが国では「通信の秘密」なる奇妙な概念が導入され,戦後はこれが金科玉条のように守られてきました。しかしこの概念は何の根拠も持ちません。時計の針を70年ほど戻せば,政府が国民の手紙や電話を監視することは当たり前でした。それによって危険人物をあぶり出し,テロを未然に防ぐことができ,社会の秩序安寧が保たれていたのです。また海外に目を向ければ,政府がすべての通信を監視することが合法である国は多く存在します。テクノロジーの進歩はあらゆる通信を自動で監視することを可能にし,手紙や電話を人の手で監視していた時代とは比べ物にならないほど有効な監視ができるようになっているのです。にもかかわらずわが国では,「通信の秘密」なる破綻した概念によって,今も恐ろしい犯罪者が野放しになっています。野放しになっている犯罪者が,明日にでも,他でもないあなたやあなたの大切な人を殺すかもしれないのです!
 期待できる動きもあります。その最たる例が冒頭で述べたフィルタリングです。これは本来憲法における「通信の秘密」に抵触しうる内容なのですが,リストの作成を民間組織に行わせる一方,その組織と政府との間で密接な関係を保ち,また他の選択肢を事実上取れなくすることによって,政府が直接監視するのと同様の効果を保ちつつ,電気通信事業者法の枠内の問題とすることができます。もともと児童ポルノ規制のために考案されたフレームワークですが,今の政治情勢であれば,著作権侵害の抑止も違法性阻却事由であると裁判所に認めさせることも,簡単ではないにしても必ず可能でしょう。その調子で次々対象を拡大していけばよいのです。しかも,これは極めて重要ですが,憲法であっても,規定のあまりに困難で不便な改正手続きを踏まずに事実上改正することはわけない,憲法など無視したとて大半の人はほとんど関心を寄せないということが明らかになっています。可能性はまさに無限大です。来たるべき新しい国の実現を前に,私は興奮を抑えられません。

2. 暗号化を禁止せよ
 暗号化! なんと恐ろしい響きでしょう。データを隠して一体どうしようというのでしょうか。Tor のように通信経路を秘匿化するものもありますが,これも同様に禁止すべきものです。誰もが知っているとおり,善良な人物は隠し事など持ちません。隠し事をする必要があるのは,詐欺師や殺人犯,危険思想の持ち主,生来の異常者のような反社会的な悪人だけです。データの暗号化などを試みる者は,外国のスパイやテロリスト,小児性愛者のような異常で社会と相容れない凶悪犯であることは論を俟ちません。むろん,業務上の要請など個人的ではない理由から,不本意ながらデータを隠さないといけない場合もあるでしょう。しかしその場合においても,政府に対しては当然全てを見せることができるはずです。もし万が一開示を拒むようなことがあれば,その組織は政府に対して隠し事をしなければならないということであり,実際には反社会勢力による偽装組織であると証明されます。
 政府によるバックドアのない暗号化技術を利用する者は凶悪な犯罪者だけであり,完全な秘密を持つことが許されるのは,国民の命を守る存在である政府だけです。一刻も早く暗号化を禁止し,違反者に重い刑罰を課すとともに容易に余罪を追求できるようにすることが必要です。なにも極端な話をしているわけではありません。世界第二位の経済大国も含む,多くの国で既に無許可での暗号化が違法となっています。監視後進国のわが国でそれが急には難しいというのであれば,捜査の対象となった者に対し全てのパスワード等の開示を義務付け,それを拒む場合に刑罰を課すという立法を早急に行うべきです。これは完璧ではないにせよ,国民の安全を守るための重要な一歩になることは間違いありません。

3. 予防的な家宅・身体捜索を実現せよ
 現行の制度では,残念ながら,確固たる証拠がないと有罪と断じることはできないことになっています。幸いわが国では「疑わしきは罰せず」といった頑迷な信条は一般には広まっていませんが,それでも司法の場でははっきりした証拠を示さねばなりません。インターネットに関連する犯罪についても,被疑者(これはもちろん犯人とほぼイコールです)のローカルのデータを調べる必要がある場合がほとんどでしょう。そこで役立つのが,予防的な捜索です。被疑者に感づかれれば,証拠を抹消されるかもしれません。少しでも疑念があれば予防的に捜索をするようにすることによって,犯罪の証拠を確実に発見,あるいは犯罪を未然に抑止できるようになります。たとえ犯罪を裏付ける証拠を得られなくとも,メールやチャットの記録を調べることによって他の潜在的な犯罪者もより容易に洗い出すことができるようになりますので,危険分子摘発の効率は飛躍的に向上します。
 素晴らしいことに,上で述べた内容は既に部分的に実現しています。それがいわゆる「別件逮捕・別件勾留」です。残念ながら一部の無責任なマスコミや国民の反発によって充分な効率は実現できていませんが,わが国の秩序は別件逮捕の存在によって保たれていると言ってよいでしょう。将来的には,警察が捜索を行うに先立って裁判所の令状が必要になるという「令状主義」の非効率性そのものを是正すべきですが,近年のわが国では司法が行政に反抗することはあまりありませんので,近いうちに制度改正なしに実質的な是正が実現することでしょう。
 憲法に違反する,という反論もあるでしょうが,それは誤りです。そもそも先述のように憲法の規定に実質的な意味は何もないということは置いておいても,公共の福祉(これはすなわち,全体の利益の前には個人の利益は無視できるという意味です。憲法学者は異なった見解を述べていますが,そのような現実を踏まえない机上の空論を顧みる必要はありません)によって,完全に合憲であることが明らかです。
 守るべきは犯罪者の権利ではありません。正しく生きる善良な一般人の権利です。

4. 雑多な意見を統制し,政府見解を世論とせよ
 私が常々心を痛めていることに,本来指導者たりえる分でないにもかかわらず,自分自身で考えたり,自分の意見を持ったり,あまつさえそれを発信したりする人々がいることがあります。このような行為は社会を徒に混乱させるだけです。血脈によるのか文化資本によるのかはさておき,人に支配する者と支配される者が存在しているのは,アリストテレスも述べているとおりです。近代以降,人は誰しも平等であるなどという危険思想が世界中に広まっています。わが国もまた例外ではなく,党のある幹部が指摘したように,天賦人権説のような誤った考え方が広く浸透しています。この元凶は教育にあり,わが国で最も権威ある新聞が報じたように,「立憲主義」について「権力を持つ者をしばる」と説明されるなど,極端に偏向した刷り込みが行われているのです。こうした誤った考えは国民の間から永久に消し去らなければなりません。国家的な意思決定に参加することができるのは,高い地位を持つ家庭に生まれたエリートだけです。幸い,党は初・中等教育の改革に成功しつつありますので,いずれ人々は分をわきまえて行動するようになるでしょう。
 
5. 党への国民の絶対の服従を実現せよ
 党は常に完全であり,誤りを犯すことはありません。これは,裏返せば,党に反発する者は常に誤っているということを意味します。それもただ単に誤っているだけではなく,敵国からやってきたスパイや,破壊活動家,思考犯や反逆者であることが殆どです。わが国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障を実現するためには,これらの危険分子を一掃し,また反逆の恐れがないほどに人々の党に対する忠誠を確固たるものにする必要があります。そのためにも,インターネット上の有害情報を遮断し,通信内容について検閲を推進し,インターネットに関連する違法行為の捜査を強化しなければなりません。この意見に反対する者はこの国には一人もいないでしょう。もし存在すれば,それは敵国のスパイかそれに類する善良な国民の敵に他ならず,即座に検挙せねばなりません。もちろん,この文章を読んでいるあなたも私の意見に全面的に同意してくれることでしょう。私は,あなたが党の方針に逆らうような愚を侵さず,善良で模範的な国民として生活することを望んでいます。ビッグ・ブラザーはあなたを見守っています。

レノボが自社製 PC に悪質なアドウェア「Superfish」を載せて出荷した話

 何日も前の話ですが,別に速報したいわけでもないので気ままにメモ。経緯も面倒なので端折ります。上のリンクを見てください(丸投げ)。
 19日ごろから,レノボ製 PC の現行モデルの多くに「Superfish」という非常に悪質なアドウェアが組み込まれているということが大きな話題となり,レノボに批判が集まりました。内容や問題点については以下のページが詳しいですが,簡単に言えば,サーバとブラウザの間の通信を勝手に盗み見て改竄する(広告を挿入する)というもので,この機能を実現するために独自の証明書が信頼できる証明書として登録されてしまっているのですが,そのやり方がむちゃくちゃで,秘密鍵が抽出でき,悪用し放題となってしまっているというのです。

Superfishが危険な理由 – めもおきば

 Superfish がここまで問題視されているのは,技術的にあまりにお粗末で,第三者による悪用のリスクが非常に高いためでしょう。シュリンクアップ契約のようなものであれ,流石に何らかの合意は取ってあるでしょうから,合法ということにはなるはずです。しかし,もし仮にもっとうまく作られていたとして,リスクが限りなく低く保たれていたとしても,やはり企業として超えてはいけない一線を超えてしまっていると思います。暗号化通信への介入は,その当人のみならず通信の相手の機密をも侵すものですから,本来,片方の当事者のみの合意によって正当化されるべきものではありません。どうしようもない場合もあるでしょうが,それにしても,ウイルス対策など社会的に大きな意義のある目的に基づく場合について,必要最小限の通信を対象とすべきであり,かつ前提として,他に現実的に取りうるよりマシな選択肢がない必要があるはずです。しかも,パターンマッチングなどによる,安全保障上の危険分子や違法なファイルの共有者などの炙り出しのための非公開のファイルの“機械的検閲”が,少なくとも米国や中国などにおいては,事前・個別の令状取得や本人の合意がなくとも合法なものとして認められ,横行しているのが現実です。この文脈上,暗号化通信への介入への問題は人権としての表現の自由とそれに由来する通信の秘密についての問題にも繋がりうるものです。Superfish は暗号化通信を不必要に広範に暴くものであり,ただ単に「脆弱性を作りこんだ」という以上の意味があります。
 しかしまあ,暗号化通信への介入と書き換えという極めて重大な意味を持つ行為が,ただ単に広告を挿入するためだけに実行されたことも,この業界における消費者とメーカー・ソフトウェアベンダーの力の関係からすれば何ら怪しむには当たらないでしょう。なにせ,ユーザーのプライバシーについて,法律に規定されたごく最低限のものを除き殆どあらゆる権利がメーカー・ソフトウェアベンダーに留保され,ユーザーすなわち消費者の権利は彼らの EULA の書き方と良心にかかっているという状況なのです。「お客様は神様です」も考えものだとは思いますが,お客様が家畜か何かのように扱われるのはもう問題外でしょう。極端な例として,ここ数年,ロシア政府やドイツ政府がタイプライターの導入を検討しているというニュースが流れ 1,笑い話のように語られてきましたが,このいびつな業界慣行が是正されないままであれば,これが笑い話でなくなり,「機密情報は PC では扱わない」が常識となるのもそう遠い未来の話でもないかもしれません。

最後に,EFF 2 と MIAU 3 と Debian 4 の寄付ページヘのリンクを貼ってみたり。
Donate to EFF | Electronic Frontier Foundation
MIAU : 寄付のお願い
Debian — Donations

Notes:

  1. In the name of security, German NSA committee may turn to typewriters | Ars Technica
  2. 電子分野におけるユーザーの権利を守ることを目的とする米国の非営利団体で,世界的な影響力を持つ
  3. EFF と類似の目的に立つ日本の団体
  4. 特に影響力のある Linux ディストリビューションのひとつで,コミュニティにより民主的に開発され,Ubuntu や Linux mint のベースにもなっている

「3D プリンタ法規制反対」への違和感

3D プリンタで DIY 銃「Liberator」を作成した大学職員が銃刀法違反の疑いで逮捕されたというニュースが世間を賑わしています。発見された銃は銃刀法施行規則に定められているところの規制値を大きく上回る能力が認められたとのことで,被疑者も容疑を認めているとのことです。この事件を受けてさまざまな角度からの議論が展開されつつあるのは周知の通りです。

さて,この問題について一つ気になることがあります。それは,Twitter 等で,3D プリンタへの法規制に反対する意見がきわめて多く見受けられることです。もちろん短文の投稿を見るだけではどの程度までの規制に反対しているのかを知ることは難しいですが,一切の法規制に反対,(2D)プリンタと同等の扱いにせよ,といった意見が圧倒的であるように見受けられます。

はっきり言って,こうした意見は無責任であり危険でさえあるように感じます。

社会の安寧に対する危険ではありません(いや,もちろんそれもありますが)。3D プリンタの未来と自由に対する危険です。

まず確認しておきたいのは,規制の当否はメリットとデメリットの兼ね合いによって決まるということです。私はインターネットの自由についてはアナキストに近い(笑)ですが,これは電子回線越しの殺人は当分実現しそうにないということ(詳細は割愛)と,多くの場合でネットの規制は精神的自由の制約に直結するというのがその理由です。たとえば米国愛国者法に基づく検閲の場合ですと,「テロや犯罪を未然に防げることがある」というのがメリットであり,「米国サービスを利用している外国人の思想信条等を丸裸にして管理することができる」というのがデメリットです。私は,検閲のメリットはこのあまりに重大なデメリットを上回るものではないと確信しています。この点,3D プリンタの法規制,たとえばカセットを購入する場合の本人確認などが考えられますが,これは精神的な自由を何ら制約するものではありません。

話を 3D プリンタに戻しましょう。3D プリンタでの武器製造は現実的でないという意見を多く目にします。確かに 3D プリンタは非力です。パーソナルタイプ(非事業用)の物は特にそうです。オウムの組織的に作られた密造銃でさえすぐにダメになるものだったそうですから,プラスティックの銃など使い捨てに近いでしょう。暴発のリスクも無視できません。これなら,より強力で安全な武器が他にいくらでもあります。――しかしそれは,今,現時点の 3D プリンタだけを見た場合についての話です。3D プリンタの解像度は向上しつつあります。実際,ほんの数年前までは「ぼこぼこして糸を引いた粗雑な塊」というのが 3D 印刷物でしたが,このイメージはもはや過去のものになりつつあります。また,金属を印刷することのできる 3D プリンタも出回るようになってきました。現状では仕組み上それほどの強度は出そうにないですが,産業界に強いニーズがありますので,遠からず改善策が提案されるかと思います。3D プリンタの進化の速度を考えると,今現在市販されているもののみを前提として想定するのはあまりにナンセンスだと言わざるを得ません。また,鉄パイプからでも銃は作れるので 3D プリンタのみを規制する理由はない,という意見もありましょう。鉄パイプから銃が作れるのはよく知られた事実です。しかし,熟練した技術を持った者が多大な労力をつぎ込まないと銃ではなく爆弾になるだけ,というのもまたよく知られた事実です。一方で 3D プリンタでは,ただボタンを押すだけで合理的な構造の銃をいくらでも大量生産できます。しかも,先で述べたように,成果物の性能はどんどん向上してゆくと考えられるのです。このように,3D プリンタによる武器製造のリスクは,仮に現時点では低いにしても,ごく近いうちに無視できないレベルになると考えるべきです。

3D プリンタによる武器製造のリスクが存在するとしましょう(まだ納得できない方もいるでしょうが,一つの可能性として考えてください)。すると,法規制が存在しない場合に,いったいどのようなことになるのでしょうか。まず考えられるのは,強力な自主規制です。自社製品で印刷した銃による殺人事件が多発すればブランドイメージに傷が付きますし,警察に目をつけられることになるかもしれません。避けるべきリスクは避けるのが経営というものです。少し毛色が違いますが,テレビで,その内容についての規制はほとんど存在しないにもかかわらず自主規制によって横並びの報道しかされていないという事実は,大きな力と大きな責任を持った企業がどういう行動を取るのかを考えるにあたって示唆を与えてくれます。もちろん,放送とは違い参入撤退が自由な業界ですから,Winny を開発した金子氏のように,自主規制に従わない主体も出てくるでしょう。すると考えられるのは警察権力の持つ裁量の伸張です。よく誤解されていますが,Winny 事件はあくまでも Winny という特定のソフトの開発が著作権侵害の幇助にあたるとしただけで,P2P 自体がどうこうという話ではありませんし,ましてや P2P を禁止する法律があるわけではありません。国内において P2P 利用の機運が萎縮したというのはありますが,これもあくまでも過剰な自主規制の結果であり,米国でも同様の判断はあるにはかかわらず,向こうでは仕組みを工夫することで積極的に P2P を利用しています。閑話休題。Winny は著作権侵害を想定して開発されたのに対し 3D プリンタは何も銃を作るための機械ではありませんので同列に扱うのは適当ではありませんが,クリティカルに合致する法(条文+判例)は存在しないが「疎ましい」存在に対して検察がどうのような対応をするのかをよく示す一件です。検察も条文や判例には逆らえませんので,そこで明示的に許されている範囲内であれば起訴されることはまずないでしょう(尤も本来であれば逮捕や起訴自体は好きにやって問題はない云々とかそういった話もあるにゃあるんですが,長くなりますので割愛)。何の明文の基準もない中で,自主規制で窮屈な思いをしたり,警察に怯えたりしながら暮らすのは,果たして自由なのでしょうか?

法規制。いかめしい字面ですし,なんだか管理されるようで嫌な感じがします。しかし,この社会はすべてルールから成り立っているのです。そのルールの中で最もマシなものが,明示的で公平なものである法律です。リスクのあるところにルールが一切存在しないことなど存在し得ないのであり,あまりの理想主義は却って悪い結果を招くことにもなりかねません。そのため私は「3D プリンタへの法規制反対」に反対します。

参照:
3Dプリンターで銃自作か 大学職員を所持容疑で逮捕:朝日新聞デジタル
自動小銃密造事件 – Wikipedia
金属を造形できる家庭用3Dプリンターが75,000円で登場 | 3Dプリンター 家庭用なら、3D CAD DATA.COM