DeNA 剽窃記事サイト事件を受けて,改めて DuckDuckGo を推奨する

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DeNA、「WELQ」騒動で「MERY」以外の9媒体を非公開に–守安社長「私自身の判断の甘さ」 – CNET Japan

 無内容で嘘偽りに満ちた極端に低品質な記事を,手段を選ばない SEO で強引に検索結果の上位に表示させる。そしてその内容は他のサイトからの剽窃――言語道断の所業です。
 しかし間違えてはいけないのは,こうした行為をしているのは DeNA だけではないということです。DeNA の場合,「東証一部上場の大企業がこんなことをしている」ということ,また資本がきわめて大きいことからいわば成功しすぎたために,結果として世間の耳目を集めているだけであり,同様のことをしている企業および個人は星の数ほど存在します。DeNA が事業を畳むなり倒産するなりしたところで,第二第三の DeNA がその地位を引き継ぐだけです。

 では,そもそもの原因はどこにあるのか? 考えるまでもありません。「ウェブでバカを騙すのはカネになる」から,これに尽きます。
 スマートフォンやタブレットの急速な普及によって多くの人がウェブにアクセスできるようになった一方,消費者のリテラシ――知識,警戒心――は今なお未発達であり,コンテンツを提供する事業者との間には情報の非対称性が広がっています。人々は新しいツールで得られる情報を貪欲にむさぼっています。質は一切問われません。多くのアクセスを得られるコンテンツである掲示板などのコピペブログの記事は,既にソフトウェアによる自動生成が一般的です。文章自体が自動生成であること,すなわちワードサラダであることも珍しくありません。こんなあからさまなゴミであっても,多くの人々にアクセスされ,場合によっては読まれるのです。DeNA の記事群も,ゴミ情報という点では同じであっても,人の手によって書かれていて文法・文脈的破綻が比較的少ないという点では,まだマシな方です。資金力さえあれば,毒,すなわち世論や消費行動の誘導を意図した偽情報を盛り込むことさえ,きわめて容易です。
 この怒涛のアクセスをカネに変える魔法がアドネットワーク(そしてアドエクスチェンジ)の広告です。これは広告出稿者と広告掲載者の間に入る一種の広告代理業であり,出稿者と掲載者が直接交渉や契約をせずに広告掲載ができるようになります。掲載者としてはページにちょっとした html タグを貼り付けるだけです。コンテンツの質なんてどうでもいいですし,かかるのは僅かなサーバ代・ドメイン代くらいです。あとは獲物が罠に誘い込まれて広告をクリックないしタップするたび儲けが生まれるのです。ゴミからカネが生まれる。なんと素晴らしい錬金術でしょうか!
 そして,消費者が情報にアクセスするためにまず訪れる場所が検索エンジン 1であり,検索結果の上位に表示されること,同じ検索結果ページに表示される他のページに何か加えたような内容にすることによってアルゴリズムに「他のページより価値がある」と認識させることが,錬金術の効率を高める一番の近道なのです(ゆえに他のサイトからの剽窃が多くなることは当然の帰結です)。

 もちろん,検索エンジンのプロバイダ,Google や Microsoft 等にとって,検索結果へのゴミ情報の氾濫は看過できるものではありません。提供する検索エンジンの価値を貶め,競合に対する競争力を失わせることにつながるからです。実際,時折アルゴリズムの改良によってスパムの排除が試みられています
 しかし,大手の検索エンジンプロバイダは同時に巨大な広告事業者でもあります。たとえば Google はその収益の9割以上を広告事業から得ています。先述の通り,検索エンジンに現れるスパムは広告収入が目当てであり,その広告収入の一部は検索エンジンプロバイダ自身の利益でもあります。つまり,抜本的な対策が困難であるばかりか,最小限度の対策に留めることによってこそ利益を最大化できる構造となっているのです。これらの広告表示には,出稿された広告を配信している同じ会社が検索エンジンとして収集した閲覧者の情報が利用されています。
 加えて,検索エンジンは特定のひとつのサービスが圧倒的なシェアを握りやすい傾向があります。独占的な地位を得ているサービスは国により異なりますが,1位のサービスは80%以上のシェアを握っていていることも普通です。また,グローバルでは Google が約76%(2016年12月現在)を占めており,全体でも独占構造になっています。シェアが奪われる見込みがなく,またシェアを奪える見込みもなく,検索エンジンの間に競争が働かず,消費者に対するサービスの改善への動機付けが存在しないということも,こんにちの混沌とした状況に至った一因と言えるでしょう。

 今のウェブ広告の仕組み自体が原因となって生まれている状況であるため,将来については悲観せざるを得ません。無内容なスパムに悩まされることがなくなるのは,金銭という動機付けが失われるとき,すなわち今のウェブ広告の仕組みが破滅するときであるので,これはかなり先になりそうです。
 消費者にできるのは自らの行動に自覚的になることです。中身のないサイトに不用意にアクセスして収益をもたらすことのないようにすべきです。Firefox のユーザであれば Hide Unwanted Results of Google Search が役立つでしょう。また,固定化したシェアを揺るがして検索エンジンプロバイダの間の競争を促すことも必要であるはずです。日本であれば Google や Yahoo! Japan の代わりにシェアの低い Bing を使うようにするだけでも違いますが,理想的なのは DuckDuckGo を利用することです 2。DuckDuckGo はプライバシの重視と意図的な操作のない(フィルタバブルのない)検索結果を売りとする検索エンジンです。日本語での検索結果の品質はまだまだといったところですが,概ね実用的な水準に達しています。現在のところ DuckDuckGo は自前のクローラに加え Yandex など他の検索エンジンの検索結果も利用しており,スパムもありますが,少なくともスパムサイトと利害が一致してはいません。もしも DuckDuckGo のようなサービスのシェアが大手サービスに並ぶような事になれば,他の検索エンジンプロバイダに対するこれ以上ないほどの強烈なメッセージとなることでしょう。

16/12/03 加筆修正。タイトルの「コピペ」が不正確であったことから,「剽窃記事」に修正。

Notes:

  1. この記事では本来の意味の検索システムとしての検索エンジンのことではなく,ウェブ検索サービスを提供するポータルサイトの意味でこの語を使っていることを註記しておきます。
  2. 同様の存在として Searx というものもあり,こちらもおすすめです。Searx は DuckDuckGo と違いサーバサイドのシステムそのものが自由ソフトウェア(AGPLv3)として公開されているのが特長です。ただしこちらは検索エンジンとしての独自性を志向してはおらず,既存の検索エンジンの検索結果を組み合わせて使用するメタ検索エンジン以上のものになることを意図したプロジェクトではありませんので,既存の検索エンジンに与えるインパクトは限定的でしょう。

DDoS 攻撃者を「サイバーフーリガン」と呼んではどうか

 最近また DDoS 攻撃が増えているようです。
 DDoS 攻撃は一般に面白みのない単純な力技で,わずかな代金で攻撃を請け負う業者まで存在します。ボットネットの構築から自前でやるにしても,ソースコード付きのソフトウェアがウェブ上で流通しており,多くの人のセキュリティ意識は依然として非常に低いという現状があって(そう,専門家でもなんでもない普通のおっさんおばさんが相手なのです),脆弱性を抱えた情報家電も多く存在していることから,技術的にはそのへんの中学生でも簡単にできてしまいます。いにしえのハッカー・クラッカー論争は置いといても,このダサさを恥ずかしく思わない,あるいはダサいと気づかない程度の者は,いかなる定義によってもハッカーの範疇に含まれることはありえないでしょう。
 また,彼らは技術のみならず「抗議」の対象についてもしばしば無知です。たとえば,捕鯨への反対を大義名分に掲げつつも,実際に攻撃を受けているのは何の関係もない(しかし外国人への知名度は高い)組織が殆どです。その一方で,どことは書きませんが,捕鯨に関係の深い組織の大半は特に攻撃が観測されていません。そもそもターゲット自体が見当違いであり,抗議としての体をなしていないわけです。
 どこかで似たようなものを見たものがありますね。サッカーにおけるフーリガンです。彼らは必ずしもチームの熱心なファンというわけではありません。しかし,欠かさず試合を観戦し,ちょっとしたきっかけを目ざとく掴んではそれを理由にして大声で叫んで暴れます。それを見た他のフーリガンもまた集団心理で同調して暴れ始めます。赤信号もみんなで渡れば怖くないというわけです。そうして堰を切ったように暴れる者が増えてゆき,まもなく馬鹿げた大騒ぎへと至るのです。暴力の対象は問わず,無関係の人をも巻き込みます。
 思うに,近ごろの DDoS 攻撃者も似たようなものでしょう。誰それ構わず手当たり次第に DDoS 攻撃を仕掛ける攻撃者には何の美学も見いだせません。見えるのは自己顕示欲だけです。彼らをハクティビストと呼ぶのは本物のハクティビストに失礼というものです。彼らは完全に区別された名前で呼ばれなければなりません。また,動機が自己顕示欲であれば,ハクティビストというある種の“ブランド”から切り離してしまい,ダサくて取るに足らない存在として扱うことで,安易な違法行為に走る理由が失われることが期待できます。一つのアイデアとして,安直ですが,「サイバーフーリガン cyber hooligan」という呼び名を提案してみます。

鈴木正朝氏,高木浩光氏らが独立シンクタンク「一般財団法人情報法制研究所」設立へ

News & Trend – 「もう役所任せにしない」、情報法制の民間研究団体を企業や学者らが設立へ:ITpro
一般財団法人情報法制研究所設立、学際的な専門家の集積による政策提言目指す – WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)
「一般財団法人情報法制研究所」設立、理事に鈴木正朝教授、高木浩光氏らが就任、LINEも支援 -INTERNET Watch

 なるほどねー。なるほどねー。まず顔ぶれが濃ゆい。理事一覧を見ると,「プライバシーフリーク」で有名な高木氏,鈴木氏を初めとして,これまで適正なプライバシ保護の重要性を主張してきた専門家の方々の名前が勢揃いしています。そういう意味ではかなり旗幟鮮明な組織と言えるでしょう。しかし,立場的にそこまで近いわけでもないと思われる方々の名前も見えます。必ずしも主張のために固まるのではなく,むしろアカデミックでの成果を社会に還元する力を持つためのプラクティカルな組織というのが本義であるようです。そのことは,政策提言を行うのみならず,約100人の委託研究員を集めたタスクフォースを作り,企業と NDA を結んだ上で踏み込んだ具体的な支援を行える体制を作るという計画にも現れています。一見うさんくさいようにも見えますが,鈴木氏や高木氏らはこれまでも,過度に緩和された(=消費者保護の乏しい)法制・ポリシーでは,国外のデータを国内に移転することができない等の理由から産業の発展をかえって阻害することになると指摘してきました。そうした主張の実践として考えてみると,とても合理的なやり方です。特に BtoC のオンライン産業では今でも浮き沈みが激しく,規律あるフェアプレイよりも全ての権利を自らの手に留保しておくほうが魅力的に見えてしまうのは仕方のないことです。それを今後につながるモデルに転換するにあたり,机上での啓蒙活動を行うのみならず今ここで役立つオルタナティブを提供するということには,非常に大きな意味があるのではないかと思います。
 興味深いのは,複数の大企業が情報法制研究所の設立・運営を支援する見通しだという点です。これまでのプライバシ関連ニュースを眺めてきて,日本のオンライン産業界は某界隈と同様の見解で一致しているように思い込んでいたので,正直なところ意外な感があります。日本の企業にも,顧客の利益を代弁するという文化が芽生えつつあるのでしょうか。あるいは飼い殺しにしてやろうという目論見なのかもしれませんが,理事の顔ぶれを見る限りそれは不可能だということが明らかでしょう。尤も,高木氏に“ステルスマーケティング”の依頼をするという暴挙に及んだある会社の広報担当者もいたくらいなので世の中わかりませんが……ともあれ,今後の展開に期待できそうです。
 ところで,こうなるとやっぱり,市民の権利そのものを守るものとして,日本にも EFF 型のバリバリに政治的かつ政治的に独立した社会運動団体も欲しくなってきますね。一応日本にも MIAU があるのですが,イシューが知財分野の一部と漫画・アニメにおける表現の問題に限られていて,サイバー空間の自由と平等一般を擁護するものとはなっていない現状があります。欧米的な「non-partisan」と日本的な「中立」の違いのわかりやすい例というか……「なら俺が!」と言うには私はまだまだ無知蒙昧なガキですし。うーむ。

3大キャリアの Android 端末に捜査当局が GPS 位置情報をこっそり抜ける機能が搭載へ

携帯のGPS情報、本人通知なしで捜査利用 新機種から:朝日新聞デジタル(2016/5/16)

  • 総務省の個人情報保護ガイドライン改訂に基づき,捜査当局が対象者に通知せず GPS 位置情報を取得できる端末が登場する。
  • ドコモは次に発売する端末の一部から対応。これまでに発売した端末についてもソフトウェアアップデートで対応させる方針。KDDI,ソフトバンクも対応の意向。
  • ドコモによると,GPS をオフにしている場合や iPhone ではこれまでどおり取得できないという。

 まあ政府では既定路線でしたし,位置情報の捜査での利用自体についてはある程度は仕方ないという感もありますが,こんな重大なことを総務省のガイドライン改訂だけで早速変えちゃうんですねえ。ノリノリですねえ。キャリア・メーカ側から法廷闘争どころか何の抵抗も見られず丸飲みしたことは,今までを考えれば予想通りとはいえ,それでもがっかりしました。
 日本において,通信の秘密やプライバシへの権力の介入は欧米と比べても比較的少ない印象がありますが,自由であるということの重要性が認識されているからではなく,単にこれまで為政者にそれを利用する発想や能力がなかっただけという,わかりやすい例でしょう。同時に,米国とは違い,企業には政府の方針に(たとえ形ばかりであろうとも)抵抗するような気骨はなく,また市民の側でも大多数の人は自らの自由の重要さについて考えてはいない,という実情が現れました。
 なお,あくまでも Android のみが対象となり,iPhone ではこれからもこっそりと位置情報を抜くことはできないようです。これは,AOSP をベースに各メーカが手を加える Android とは異なり,iPhone (iOS) ではキャリアの意向に基づいてシステムに手を加えることはできないというのが理由でしょう。不自由であることが却って自由の保護に役立つとは皮肉なことです。明治時代,不平等条約が改正されて治外法権が無くなれば日本で唯一表立って体制批判を行える存在である外国人知識人がいなくなってしまう,という理由から,民権派の間では不平等条約改正に反対する意見も根強かったそうですが,今の日本はまだそんなレベルなのでしょうか。
 また GPS をオフにしていれば位置情報は取得されないとのことですが,技術的な問題や政治的判断で今のところできない/やらないだけなのか,何か法的な判断に基づくものなのかはよくわかりません。たぶん前者だと思いますが。
 救いは,今のところ「義務」ではないことです。すなわち,キャリア以外から日本メーカ以外の端末を購入するのであれば,この問題を持たない Android 端末を今後も容易に入手可能でしょう。MVNO 普及のおかげで,日本の電波法規に適合した,キャリアとの契約によらない白ロムの選択肢が増えています。そもそも Android (と Google アカウント)自体がプライバシという面では問題が非常に多いのですが,アプリの対応 OS,価格や電波法規などから Android 端末を持たねばならない局面が多いのも事実です。そうした場合においては,技適取得済みのグローバルモデル,たとえば Nexus シリーズなどを使うことが,よりマシな(そしてより自由を求めているという意思表示になる)選択肢となるでしょう。

Twitter などを眺めているとこの件について誤解している人が多いようなので,補足情報。

  • 記事にあるとおり,令状はこれまで通り取る必要があります。充分な精査がされずこの仕組み自体有効に機能していないという指摘もありますが,それは制度の問題とは別の話。
  • 基地局ベースの位置情報はこれまでも本人に通知されることなく捜査に利用されています 1。ただし基地局情報と GPS データでは精度が全く違います 2。また,利用されていたという事実は利用することに問題がないという根拠にはならないという論点もあります。

Notes:

  1. 例えばこの記事 Listening:<通信事業者指針>改正へ 携帯位置情報を通知なく捜査利用 – 毎日新聞 – http://mainichi.jp/articles/20150525/org/00m/040/006000c
  2. 基地局による測位は数百メートル〜数キロメートルの精度と言われています。例えば秋葉原でいうとラジオセンターから TSUKUMO eX. までが300メートルくらいで,それが二次元に……いやそっちじゃなくて……広がっているのです。しかもそれは最も正確に測定できた場合の話です。一方でスマートフォンの A-GPS は,概ね10メートル程度までの誤差でトラックでき,空がよく見えて静止していればほぼぴったりになることもしばしばです。