鈴木正朝氏,高木浩光氏らが独立シンクタンク「一般財団法人情報法制研究所」設立へ

News & Trend – 「もう役所任せにしない」、情報法制の民間研究団体を企業や学者らが設立へ:ITpro
一般財団法人情報法制研究所設立、学際的な専門家の集積による政策提言目指す – WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)
「一般財団法人情報法制研究所」設立、理事に鈴木正朝教授、高木浩光氏らが就任、LINEも支援 -INTERNET Watch

 なるほどねー。なるほどねー。まず顔ぶれが濃ゆい。理事一覧を見ると,「プライバシーフリーク」で有名な高木氏,鈴木氏を初めとして,これまで適正なプライバシ保護の重要性を主張してきた専門家の方々の名前が勢揃いしています。そういう意味ではかなり旗幟鮮明な組織と言えるでしょう。しかし,立場的にそこまで近いわけでもないと思われる方々の名前も見えます。必ずしも主張のために固まるのではなく,むしろアカデミックでの成果を社会に還元する力を持つためのプラクティカルな組織というのが本義であるようです。そのことは,政策提言を行うのみならず,約100人の委託研究員を集めたタスクフォースを作り,企業と NDA を結んだ上で踏み込んだ具体的な支援を行える体制を作るという計画にも現れています。一見うさんくさいようにも見えますが,鈴木氏や高木氏らはこれまでも,過度に緩和された(=消費者保護の乏しい)法制・ポリシーでは,国外のデータを国内に移転することができない等の理由から産業の発展をかえって阻害することになると指摘してきました。そうした主張の実践として考えてみると,とても合理的なやり方です。特に BtoC のオンライン産業では今でも浮き沈みが激しく,規律あるフェアプレイよりも全ての権利を自らの手に留保しておくほうが魅力的に見えてしまうのは仕方のないことです。それを今後につながるモデルに転換するにあたり,机上での啓蒙活動を行うのみならず今ここで役立つオルタナティブを提供するということには,非常に大きな意味があるのではないかと思います。
 興味深いのは,複数の大企業が情報法制研究所の設立・運営を支援する見通しだという点です。これまでのプライバシ関連ニュースを眺めてきて,日本のオンライン産業界は某界隈と同様の見解で一致しているように思い込んでいたので,正直なところ意外な感があります。日本の企業にも,顧客の利益を代弁するという文化が芽生えつつあるのでしょうか。あるいは飼い殺しにしてやろうという目論見なのかもしれませんが,理事の顔ぶれを見る限りそれは不可能だということが明らかでしょう。尤も,高木氏に“ステルスマーケティング”の依頼をするという暴挙に及んだある会社の広報担当者もいたくらいなので世の中わかりませんが……ともあれ,今後の展開に期待できそうです。
 ところで,こうなるとやっぱり,市民の権利そのものを守るものとして,日本にも EFF 型のバリバリに政治的かつ政治的に独立した社会運動団体も欲しくなってきますね。一応日本にも MIAU があるのですが,イシューが知財分野の一部と漫画・アニメにおける表現の問題に限られていて,サイバー空間の自由と平等一般を擁護するものとはなっていない現状があります。欧米的な「non-partisan」と日本的な「中立」の違いのわかりやすい例というか……「なら俺が!」と言うには私はまだまだ無知蒙昧なガキですし。うーむ。

3大キャリアの Android 端末に捜査当局が GPS 位置情報をこっそり抜ける機能が搭載へ

携帯のGPS情報、本人通知なしで捜査利用 新機種から:朝日新聞デジタル(2016/5/16)

  • 総務省の個人情報保護ガイドライン改訂に基づき,捜査当局が対象者に通知せず GPS 位置情報を取得できる端末が登場する。
  • ドコモは次に発売する端末の一部から対応。これまでに発売した端末についてもソフトウェアアップデートで対応させる方針。KDDI,ソフトバンクも対応の意向。
  • ドコモによると,GPS をオフにしている場合や iPhone ではこれまでどおり取得できないという。

 まあ政府では既定路線でしたし,位置情報の捜査での利用自体についてはある程度は仕方ないという感もありますが,こんな重大なことを総務省のガイドライン改訂だけで早速変えちゃうんですねえ。ノリノリですねえ。キャリア・メーカ側から法廷闘争どころか何の抵抗も見られず丸飲みしたことは,今までを考えれば予想通りとはいえ,それでもがっかりしました。
 日本において,通信の秘密やプライバシへの権力の介入は欧米と比べても比較的少ない印象がありますが,自由であるということの重要性が認識されているからではなく,単にこれまで為政者にそれを利用する発想や能力がなかっただけという,わかりやすい例でしょう。同時に,米国とは違い,企業には政府の方針に(たとえ形ばかりであろうとも)抵抗するような気骨はなく,また市民の側でも大多数の人は自らの自由の重要さについて考えてはいない,という実情が現れました。
 なお,あくまでも Android のみが対象となり,iPhone ではこれからもこっそりと位置情報を抜くことはできないようです。これは,AOSP をベースに各メーカが手を加える Android とは異なり,iPhone (iOS) ではキャリアの意向に基づいてシステムに手を加えることはできないというのが理由でしょう。不自由であることが却って自由の保護に役立つとは皮肉なことです。明治時代,不平等条約が改正されて治外法権が無くなれば日本で唯一表立って体制批判を行える存在である外国人知識人がいなくなってしまう,という理由から,民権派の間では不平等条約改正に反対する意見も根強かったそうですが,今の日本はまだそんなレベルなのでしょうか。
 また GPS をオフにしていれば位置情報は取得されないとのことですが,技術的な問題や政治的判断で今のところできない/やらないだけなのか,何か法的な判断に基づくものなのかはよくわかりません。たぶん前者だと思いますが。
 救いは,今のところ「義務」ではないことです。すなわち,キャリア以外から日本メーカ以外の端末を購入するのであれば,この問題を持たない Android 端末を今後も容易に入手可能でしょう。MVNO 普及のおかげで,日本の電波法規に適合した,キャリアとの契約によらない白ロムの選択肢が増えています。そもそも Android (と Google アカウント)自体がプライバシという面では問題が非常に多いのですが,アプリの対応 OS,価格や電波法規などから Android 端末を持たねばならない局面が多いのも事実です。そうした場合においては,技適取得済みのグローバルモデル,たとえば Nexus シリーズなどを使うことが,よりマシな(そしてより自由を求めているという意思表示になる)選択肢となるでしょう。

Twitter などを眺めているとこの件について誤解している人が多いようなので,補足情報。

  • 記事にあるとおり,令状はこれまで通り取る必要があります。充分な精査がされずこの仕組み自体有効に機能していないという指摘もありますが,それは制度の問題とは別の話。
  • 基地局ベースの位置情報はこれまでも本人に通知されることなく捜査に利用されています 1。ただし基地局情報と GPS データでは精度が全く違います 2。また,利用されていたという事実は利用することに問題がないという根拠にはならないという論点もあります。

Notes:

  1. 例えばこの記事 Listening:<通信事業者指針>改正へ 携帯位置情報を通知なく捜査利用 – 毎日新聞 – http://mainichi.jp/articles/20150525/org/00m/040/006000c
  2. 基地局による測位は数百メートル〜数キロメートルの精度と言われています。例えば秋葉原でいうとラジオセンターから TSUKUMO eX. までが300メートルくらいで,それが二次元に……いやそっちじゃなくて……広がっているのです。しかもそれは最も正確に測定できた場合の話です。一方でスマートフォンの A-GPS は,概ね10メートル程度までの誤差でトラックでき,空がよく見えて静止していればほぼぴったりになることもしばしばです。