「3D プリンタ法規制反対」への違和感

3D プリンタで DIY 銃「Liberator」を作成した大学職員が銃刀法違反の疑いで逮捕されたというニュースが世間を賑わしています。発見された銃は銃刀法施行規則に定められているところの規制値を大きく上回る能力が認められたとのことで,被疑者も容疑を認めているとのことです。この事件を受けてさまざまな角度からの議論が展開されつつあるのは周知の通りです。

さて,この問題について一つ気になることがあります。それは,Twitter 等で,3D プリンタへの法規制に反対する意見がきわめて多く見受けられることです。もちろん短文の投稿を見るだけではどの程度までの規制に反対しているのかを知ることは難しいですが,一切の法規制に反対,(2D)プリンタと同等の扱いにせよ,といった意見が圧倒的であるように見受けられます。

はっきり言って,こうした意見は無責任であり危険でさえあるように感じます。

社会の安寧に対する危険ではありません(いや,もちろんそれもありますが)。3D プリンタの未来と自由に対する危険です。

まず確認しておきたいのは,規制の当否はメリットとデメリットの兼ね合いによって決まるということです。私はインターネットの自由についてはアナキストに近い(笑)ですが,これは電子回線越しの殺人は当分実現しそうにないということ(詳細は割愛)と,多くの場合でネットの規制は精神的自由の制約に直結するというのがその理由です。たとえば米国愛国者法に基づく検閲の場合ですと,「テロや犯罪を未然に防げることがある」というのがメリットであり,「米国サービスを利用している外国人の思想信条等を丸裸にして管理することができる」というのがデメリットです。私は,検閲のメリットはこのあまりに重大なデメリットを上回るものではないと確信しています。この点,3D プリンタの法規制,たとえばカセットを購入する場合の本人確認などが考えられますが,これは精神的な自由を何ら制約するものではありません。

話を 3D プリンタに戻しましょう。3D プリンタでの武器製造は現実的でないという意見を多く目にします。確かに 3D プリンタは非力です。パーソナルタイプ(非事業用)の物は特にそうです。オウムの組織的に作られた密造銃でさえすぐにダメになるものだったそうですから,プラスティックの銃など使い捨てに近いでしょう。暴発のリスクも無視できません。これなら,より強力で安全な武器が他にいくらでもあります。――しかしそれは,今,現時点の 3D プリンタだけを見た場合についての話です。3D プリンタの解像度は向上しつつあります。実際,ほんの数年前までは「ぼこぼこして糸を引いた粗雑な塊」というのが 3D 印刷物でしたが,このイメージはもはや過去のものになりつつあります。また,金属を印刷することのできる 3D プリンタも出回るようになってきました。現状では仕組み上それほどの強度は出そうにないですが,産業界に強いニーズがありますので,遠からず改善策が提案されるかと思います。3D プリンタの進化の速度を考えると,今現在市販されているもののみを前提として想定するのはあまりにナンセンスだと言わざるを得ません。また,鉄パイプからでも銃は作れるので 3D プリンタのみを規制する理由はない,という意見もありましょう。鉄パイプから銃が作れるのはよく知られた事実です。しかし,熟練した技術を持った者が多大な労力をつぎ込まないと銃ではなく爆弾になるだけ,というのもまたよく知られた事実です。一方で 3D プリンタでは,ただボタンを押すだけで合理的な構造の銃をいくらでも大量生産できます。しかも,先で述べたように,成果物の性能はどんどん向上してゆくと考えられるのです。このように,3D プリンタによる武器製造のリスクは,仮に現時点では低いにしても,ごく近いうちに無視できないレベルになると考えるべきです。

3D プリンタによる武器製造のリスクが存在するとしましょう(まだ納得できない方もいるでしょうが,一つの可能性として考えてください)。すると,法規制が存在しない場合に,いったいどのようなことになるのでしょうか。まず考えられるのは,強力な自主規制です。自社製品で印刷した銃による殺人事件が多発すればブランドイメージに傷が付きますし,警察に目をつけられることになるかもしれません。避けるべきリスクは避けるのが経営というものです。少し毛色が違いますが,テレビで,その内容についての規制はほとんど存在しないにもかかわらず自主規制によって横並びの報道しかされていないという事実は,大きな力と大きな責任を持った企業がどういう行動を取るのかを考えるにあたって示唆を与えてくれます。もちろん,放送とは違い参入撤退が自由な業界ですから,Winny を開発した金子氏のように,自主規制に従わない主体も出てくるでしょう。すると考えられるのは警察権力の持つ裁量の伸張です。よく誤解されていますが,Winny 事件はあくまでも Winny という特定のソフトの開発が著作権侵害の幇助にあたるとしただけで,P2P 自体がどうこうという話ではありませんし,ましてや P2P を禁止する法律があるわけではありません。国内において P2P 利用の機運が萎縮したというのはありますが,これもあくまでも過剰な自主規制の結果であり,米国でも同様の判断はあるにはかかわらず,向こうでは仕組みを工夫することで積極的に P2P を利用しています。閑話休題。Winny は著作権侵害を想定して開発されたのに対し 3D プリンタは何も銃を作るための機械ではありませんので同列に扱うのは適当ではありませんが,クリティカルに合致する法(条文+判例)は存在しないが「疎ましい」存在に対して検察がどうのような対応をするのかをよく示す一件です。検察も条文や判例には逆らえませんので,そこで明示的に許されている範囲内であれば起訴されることはまずないでしょう(尤も本来であれば逮捕や起訴自体は好きにやって問題はない云々とかそういった話もあるにゃあるんですが,長くなりますので割愛)。何の明文の基準もない中で,自主規制で窮屈な思いをしたり,警察に怯えたりしながら暮らすのは,果たして自由なのでしょうか?

法規制。いかめしい字面ですし,なんだか管理されるようで嫌な感じがします。しかし,この社会はすべてルールから成り立っているのです。そのルールの中で最もマシなものが,明示的で公平なものである法律です。リスクのあるところにルールが一切存在しないことなど存在し得ないのであり,あまりの理想主義は却って悪い結果を招くことにもなりかねません。そのため私は「3D プリンタへの法規制反対」に反対します。

参照:
3Dプリンターで銃自作か 大学職員を所持容疑で逮捕:朝日新聞デジタル
自動小銃密造事件 – Wikipedia
金属を造形できる家庭用3Dプリンターが75,000円で登場 | 3Dプリンター 家庭用なら、3D CAD DATA.COM

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