T100TA:「SD にインストール」の実用性は?

Windows タブレットのデータ保存領域はどれも低容量ですが,T100TA の下位モデルは内蔵 eMMC が 32GB と特に低容量です。キーボードドック付きでノート PC として使うことの多い機種ですので,なおさら手狭に感じます。私の T100TA も残容量が6GBを切りそうな勢いです……そこで「ソフトは micro SD(HC/XC 含む,以下「SD」と総称) カードにインストールしよう」ということになるのですが,ここで心配になるのはその実用性です。そう,周知の通り SD カードは遅い!です。Class10 でさえ安物 CF に劣り,高速 CF も安物 SSD に勝てないというのが常識。ソフトを SD にインストールして利用するというのは果たして現実的なアイデアなのでしょうか。
今回はこの問題について考えてみます。

お決まり,まずはベンチマーク
とりあえずベンチマークを走らせてみました。使用したのは Windows 用ストレージベンチとして定評のある「CrystalDiskMark」,書き込みデータ容量は「100MB」で試行回数は「3回」という設定です。
まずは内蔵 eMMC の結果です。T100TA の内蔵 eMMC には SanDisk 製と Hynix 製の2種類が確認されているそうで,SanDisk 製のものの方が遅いそうですが,私の個体の内蔵 eMMC はその遅い方の SanDisk 製のものです。
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なかなかの速度が出ています。

次に SD です。私が使用しているのは,信頼性と性能から見たコストパフォーマンスの高さで人気の東芝 Class10/UHS-1 対応モデル microSDHC カード,「MU-B016GX」です。もっとも T100TA の内蔵カードリーダがダメダメなので性能を引き出してやることはできません。他にも T100TA で microSD のベンチを取られている方は多いですが,概ね私の結果と似たような数字になっているので,このへんが T100TA のカードリーダの限界と見てよいでしょう。
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物悲しげな数字が出てきました。ランダムリードの数字はそう悪くありません。ランダムライトも一昔前の HDD くらいで,ギリギリ許容範囲内でしょうか。ただ,シーケンシャルリード/ライトは目立って遅いです。また,「512K Write」がやたらと遅いのが気になります。これらの特性は実用にあたりどのような結果をもたらすのでしょうか?

実際にソフトを使って比較
実際のソフト起動時間の計測結果も紹介します。ただし,手での計測であり,値はそれぞれ二回ずつ計測した結果の平均ですので,参考程度だと思ってください。コンマ以下は3桁まで計測していますが,1桁までに四捨五入しています。
今回検証に使用したのは GIMP を PortableApps.com がカスタマイズした「GIMP Portable」。インストール条件,読み込むツールや開くウインドウなどはいずれも標準設定です。eMMC と SD の条件は上述の通り,開く画像は Pentax K-5 で撮影した7,268KB・3936×2624の JPG ファイルで,適用するフィルタは「Cartoon」(Mark radius:7.00,Percent black:0.200),エクスポートの形式は PNG で標準設定から圧縮レベルのみ「0」です。

eMMC
内蔵 eMMC の GIMP Portable を画像を指定せずに起動:
15秒4

同,内蔵 eMMC に保存された画像を指定して起動:
17秒5

上で開いた画像にフィルタを適用:
19秒6

上で編集した画像を内蔵 eMMC に保存:
3秒0

SD
SD の GIMP Portable を画像を指定せずに起動:
19秒0

同,SD に保存された画像を指定して起動:
20秒7

上で開いた画像にフィルタを適用:
19秒5

上で編集した画像を SD に保存:
6秒5

なかなか面白い結果が出ました。ベンチマークの数字では eMMC と SD のランダム・シーケンシャルリードにはかなりの差があるのですが,実際の起動時間はそれほど変わらないようです。フィルタ適用はオンメモリでの処理なので差が出ていません。そして,画像の保存には倍の差がついています。ベンチマークの数字から考えれば起動の差より保存の差の方がずっと小さくなりそうなもんなんですが。起動時には私が思っているより複雑なことが行われているのかもしれません。まあなんにせよ,実使用ではベンチマークの数字ほどには差がでないようです。少なくとも速度面については充分実用になると判断してよさそうです。

寿命の問題
速度はまあ許容範囲内ということがわかりました。ただ,問題は速度だけではありません。
次に気になるのはSD カードの寿命がどれくらいのものなのかということです。もちろん SSD も SD カードも使っているフラッシュメモリの寿命という点では変わりません(一般に,MLC の場合で1ブロックあたり書き換え1,000〜10,000回程度だと言われている)し,SSD と同じく SD カードもウェアレベリングはしています。しかし,SSD が壊れたという話はほとんど聞かないのに対して,SD カードは自分の経験だけでもよく壊れています。これは一体なぜでしょう。SSD と SD カードの違いを考えてみるに,以下あたりが怪しそうです。

    • 容量の違い?

SD カードは数GBなど低容量のものが多いが,低容量のため代替ブロックが少なく,それが寿命の短さにつながっているのでは,という仮説。

    • コントローラの性能や寿命?

SD カードは SSD と比べてコントローラの性能が低く不良ブロックを見落としやすいのではないか,あるいはコントローラの寿命が短くフラッシュメモリの寿命より早く挙動がおかしくなるのではないかという仮説。

    • ウェアレベリングしていないカードがある?

ネット上のベンチ結果情報を見ると,寿命は長いものと短いものに二極化している印象を受けます。また,私はコントローラチップのメーカーがウェアレベリングしているといっているのだからしているのだろうと思っていましたが,SD カードはウェアレベリングをしていない,という主張も時折見かけます。ひょっとして安物カードのコントローラはウェアレベリングをしていなくてフラッシュメモリがすぐ死ぬのかも?という仮説。前2つよりさらに無根拠です。

    • 単純に数の差?

たとえば私の部屋に SSD は3台しかありませんが SD カードは20枚くらいあります。つまり,そもそも SD カードの方がよく壊れるという前提が間違いなのでは,という仮説。案外これだったりして。

立ちはばかる謎を解決する手がかりを得るべく検索エンジンと格闘したのですが,この問題につき満足のゆく答えは得られませんでした。かくなる上は自分で実際に検証してみるしかないのですが,それだけの根気も財力も結果が正しいかを判断できるだけの知識もないので,形あるものは全て滅びる定め,与えられた運命を受け入れ……じゃなかった,破損しても問題のないデータのみを置くようにして,いつ壊れても大丈夫なように設定ファイルなどはこまめにバックアップを取るようにして使っていこうと思います。引き伸ばした割にダメダメな結論で申し訳ありません。

紛失の問題
T100TA はなぜか microSD カードがスロットから少しはみ出す(ツライチにならない)作りになっています。ツライチにするのも難しくはないだろうになぜわざわざこんな仕様にするのか本当に理解に苦しみますが,現にそうなっているものは仕方ありません。考えられる対策としては以下のようなものがあります。

    • SD カードを削る

実施済み。ただ,T100TA の場合カードの背ではなく回路のある腹の側を削らねばならず,あまり大きくは削れません。そのため,安全圏内でギリギリまで削ったとてほとんど改善はしません(若干引っかかりにくくなる程度)。

    • テープでとめる

これが最良の選択肢かもしれません。ただ,気づかないうちにカードがリリースされていて接触が不安定になりデータが破損するリスクがあります。また,テープでとめたところで粘着力が弱まって落ちないという保証はありません。

どちらも抜本的ではありません。流出したら困るデータはそもそも置かない,という配慮が必要でしょう。これはけっこう致命的かもしれません。またもやダメダメな結論で申し訳ありません。

結局のところ
microSD についてはあくまでも補助的に考えるべきのようです。速度面ではそれほど問題は無いようですが,寿命が不明なので破損したら面倒なことになるデータは置きたくありませんし,ソフトにしても,ブラウザやメーラーなど流出させるわけにはいかないセンシティブな情報を設定ファイルに含むソフトは残念ながら置くことはできません。その一方で,ゲームやダウンロードしたファイルの置き場としては大活躍することでしょう。実際,試しに「Tropico 4」というゲームを SD にインストールしてみましたが,ローディングこそ少し遅いもののなかなか快適にプレイできています。もし microSD スロットがなければ空き容量の問題からこのマシンでゲームを楽しむことはできなかったはずですので,この microSD スロットのおかげで活用の幅が大きく広がったわけです。表題の問いに対しては,「用途によっては充分に実用的だし,用途によっては実用云々の以前に危険」という答えになりそうです。

続編? → T100TA: Truecrypt の力を借りて microSD カードの実用性を上げるメモ | 怠惰の形而上学

参照:

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